【PFCS】SS『ササノハ サラサラ』
七夕SS『ササノハ サラサラ』
とある日の午後。
「…あれ?セキウン、それ、何?」
カイザートに帰郷していたラミリアとクォルが、手の平程の細長い葉を沢山つけている 巨大な植物を数本、道場の前にセッティングしている赤雲を見つけた。
「おお、ラミリア嬢。それにクォル。
…コレは、『笹』という植物だよ。
リーフリィには自生していない様だったから、焔帝山から送ってもらっていてね…」
よっ、と最後の『笹』を穴を開けた地面に差し込んで動かない様にしながら、赤雲がニコニコと答えた。
「え、わざわざ外殻から送ってもらったの?」
「ああ、勿論さ。…今日は『七夕』だからね」
「『
クォルが不思議そうに首を傾げるところに、今度はカラフルな色紙の束とペンの入った箱を抱えた優焔がやって来る。
「『七夕』とは、焔帝山に伝わる昔噺の一つで、…どれ程昔の話かは分かりませんが、
昔、僧兵であった1人の男が、1人の機織の女に一目惚れして熱を上げてしまい、僧の任務を怠り とても怠惰になってしまった為、焔帝山の手練場に無期限で幽閉された事があった様で」
「え、怖…余っ程怠け者になったのね、その人…」
「ええ。
…手練場には男しか居ないし、このままでは嫁を娶るどころか、いつ下山出来るとも分からない状況に、短命な我々の命題たる「子孫を残す義務」を果たせないと、自らの過ちを悔いた男は、それはもう熱心に修行に明け暮れたと言います」
「ヤローしかいない手練場だろ…?そりゃそーなるって…。
俺様なら発狂しそうだな…」
「そう。それで、人が変わった様に元より真面目に修行したお陰か、実際には5年程で赦されたらしいのですが、
その5年の間、男は機織の女が誰の嫁にもならない様に、熱心に想いを短冊にしたため、焔帝山自生する笹の小枝に括り付け、定期的に下界とやり取りする者に託していた様で、
機織の女はずっと変わらなかった男の想いに惚れ込み、下山した男の第一の嫁になったそうです。
この話に肖り、2人が婚姻した日を『七夕』と名付け、想い人の名や良い婚姻が出来る様に願いを短冊にしたため、焔帝山に奉納する習慣が定着しました」
2人が淡々と話す優焔から話される話に青ざめていると、赤雲が はっはっは!と楽しそうに笑った。
「信念通せば願いは叶う、という事だ。
…あー、あと、この話には補足があってな」
優焔から短冊とペンを受け取り、赤雲が短冊をヒラヒラとさせながらおどける。
「その幽閉された僧兵の男は、我が家の初代だという話なんだ。
…だから我が家は代々、毎年この『七夕』を重んじ、笹に願いを託す。嗣子、末代まで」
「…なるほどねー」
「せっかくだから、道場のみんなにも声をかけたら、師父もそりゃあ良いって乗り気でね。こうして沢山用意してみた次第。
…と言うわけで、2人にも、ハイ」
ニコニコと赤雲に短冊とペンを手渡され、クォルとラミリアは ふむ、と考え込んだ。
「(願い事…願い事ねえ…)」
そりゃあまあ、無い事は無いけど。
と、考え込んでいるうちにサラサラと何か書き始めたラミリアの短冊を、クォルはチラリと覗き見た。
『ラシェとクライドが
ずっと幸せでありますように』
ラミリアは、自分達より歳若い友人達の名前を書いていた。
おや、と赤雲がそれを口にする。
「それは2人の御友人かい?」
「うん。最近結婚したんだけどさ、
…色々あったから、あの子達には幸せになってほしいんだよね」
「なるほど。
ラミリア嬢は やはり優しいなあ」
赤雲は書かれたばかりのラミリアの短冊を手に取り、短冊に空けてあった穴に紙縒を通すと、用意した笹の中で一番背の高い笹の天辺の方にその短冊を括り付けた。
「そういう願いは、天に近ければ近いほど仏の御心に届くものだからね」
「ふふっ。ありがと、セキウン」
「さあ、次はラミリア嬢の願い事を。人の幸せを願うのは素晴らしい事だが、自分の幸せが一番だよ」
そう言いながら、赤雲はピラリと自分の書いた短冊をチラつかせた。
『ラミリア嬢が
俺の嫁御になってくれますように』
「「…っんな…⁈」」
ニヤニヤと笑って言う赤雲に、当然の事ながら2人は同じ様に驚いた声を上げ、真っ赤になって絶句した。
ただし、
クォルは怒って
ラミリアは照れて
…だが。
「おっ…、おっ前なあ、よく、そんな歯が浮くような事を堂々と…っ!」
クォルが食って掛かると、赤雲は更にわざとらしくニヤついた。
「ラミリア嬢は俺など眼中に無いからなあ。
…だとすれば、常日頃からこうしてアピールしておかないと、いつの間にやら誰かさんに盗られてしまうだろう?」
「ハンッ。こんな男女、そんな焦んなくても誰も盗んねぇ、ょ…ッ、て、イッテェ‼︎‼︎」
赤雲に言い返すクォルに、赤面して固まっていたラミリアは我に帰って脇腹に肘鉄を食らわす。
蹲るクォルをムウっと頬を膨らませて睨み、ラミリアはプイッとそっぽを向いた。
「あんたに言われたくないわよ、この唐変木の朴念仁ッ‼︎」
「ぐ、…るせぇ、そのとーりだろ!
大体なあ、俺様に言い寄ってくる女は五万と居るんだ、その気になりゃあ、男が怖がって寄らないお前と違って、彼女の1人や2人、3人4人…」
「1度に2人以上作んな、アホーッ!」
今度は華麗にアッパーを決め、クォルが倒れこむと、ラミリアはふんっと鼻息を鳴らしてパンパンと手を払い、改めて短冊とペンを手に取った。
赤雲が、あーあ…と倒れたクォルを覗き込む中、優焔が何事も無かった様に淡々と願いを短冊にしたため、笹に吊るす。
ラミリアはふと声をかけた。
「…ユウエンちゃんの願い事は何?」
「わたくしの願いはただ一つ、
『主が未来永劫、息災であります様に』、です」
「ユウエンちゃんは本当にセキウンの事大切なのねえ」
「勿論、無論です。
ただ、主は先程ラミリア殿に言った通り、他人の幸せも大事だが己の幸せも願ってこそ、と言いますので…」
そう言いながら優焔は、いつの間に書いていたのか、もう一つ短冊を笹に取り付けた。
チラリと見えたそこには、
『主の “一の嫁御”になれます様に』
と書かれている。
ラミリアは ふふっと笑った。
「ユウエンちゃんはセキウンが大好きなのね、本当に」
「恐れ入ります。
…さぁ、わたくしの事より ラミリア殿?
御自分の願いを書かれてみては?もしかしたら、御仏に願いが届くやもしれません」
「…う、…うん…」
そう言われ、ラミリアは改めて短冊に向かってペンを傾ける。
…正直、恥ずかしさが先に立って中々書き出せないものだ。
「ゆ、ユウエンちゃん…ちょっとこっち見ないで…」
「恥ずかしがる事無いでしょうに」
「いいからっ」
「…了解しました」
一つ溜息をつき、優焔はススッとその場を離れた。
「主、わたくしは短冊付け終わりましたので、師父達を呼んで参りますね」
「おお、宜しく頼む」
そんなやり取りを赤雲と優焔がしているうちに、ラミリアはササっと願い事を短冊に書き出し、そばに置いてあった脚立に手を伸ばした。
「よいしょっと…」
最初に書いた短冊の様に天辺に付ければ見られる事は無いだろう。
ラミリアは短冊の紙縒を天辺の空いた笹に括り付け、登った脚立を一段降りた。
『もっと素直になれます様に』
…こういう事は他力本願じゃいけない気はするが、それでも勇気の足しになれば。
ラミリアは はあ、と溜息を吐いた。
「お前、何書いたの?」
不意に声をかけられて見れば、いつの間にやら復活したらしいクォルが脚立の脚を支えていてこちらを見ている。
ラミリアはジロッとそれを見やり、ぶっきらぼうに答えた。
「…内緒」
「ふぅん?」
脚立を降り切ると、丁度道場にいた師父達や門下生達が、優焔に連れられ わらわらと外に出たところだった。
「あ、ラミリア殿、書けましたか」
「ゴメンね、ユウエンちゃん。…ありがと」
えへへと苦笑いするラミリアに、優焔は いえ、と軽く口の端を上げた。
そして、ラミリアの横に立つクォルに声をかける。
「クォル殿は書かれましたか?」
「…俺様は いいや。
…それより、コレ、うちの連中も呼んできて良いんかな?兄貴んトコのガキんちょ達 喜びそうだ」
「勿論です。是非お連れ下さい」
優焔がそう答えると、クォルは「じゃあ呼んでくるわ」と出口の方へスタスタと歩いて行ってしまった。
「…あ!待ってクォル!私も行っていいー?」
どうせ戻ってくるだろうクォルに、ラミリアは慌ててその後を追った。
「はあ?別にいいけどさー…」
などとクォルが返しながら、一緒に歩いていく姿を、優焔はヤレヤレ…と思いつつ見送った。
「全く、あの2人は…」
笹飾りの準備を始めていた赤雲も、同じ様な気持ちだったのか、一枚の短冊を手にして苦笑いしながら優焔のそばにやって来た。
手にした短冊は、ぐしゃぐしゃにされていたのかしわくちゃだ。
「?如何されました、その短冊」
「…ん?あ、ああ。そこに丸めて置いてあったんだけど…」
赤雲は短冊についたシワを伸ばし、何事も無かったかの様に紙縒を通す。
それを手に持ち、先程ラミリアが1人で自分の願い事を書いた短冊を括り付けた笹の枝のそばに慣れた手つきで付けてやると、一つ大きく溜め息を吐いた。
「『強くなりたい』、か。
…ラミリア嬢の認める婿の条件って、確か道場の跡取りに相応しい『強い男』だったっけ?」
「話には伺ってますが、…アレは縁談を躱す為のただの常套句ではないかと」
「俺もそうは思ってるんだけどな。
…まあ、小さい頃から一緒に居れば、あの強さは当たり前になってしまうんだろうなあ…。
ラミリア嬢にとって、無意識のうちに一番身近に居るクォルの『強さ』が、婿選びの判断基準になってるだろうにねぇ」
それがつまりどういう事かなど、論ずる程でも無い。
赤雲と優焔は何とも言えない苦笑いを浮かべ、仲良く並べたあの2人の短冊が靡くのを暫く眺めていた。
* fin *
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