テキトー手探り創作雑記帳

創作企画PFCS中心ブログ。書いたり描いたり。

【PFCS】SS『手向けの花』

手向けの花

グランローグの城の裏手にある
広大な針葉樹の森の人目に付かぬ場所に、
一つの廟がある。
ここには、
クライドを産んで暫くして亡くなった、
王妃エフェメラが眠っている。
そして、
悪政を尽くした
かの父王も共に───…。

グランローグの王族しか
入る事を許されぬこの場所に、
レイガと憮然とした顔のクライド、
それに静かに付き添うラシェの姿があった。




「…一国を担っていた王が、
こんな人目のつかない場所に
埋葬されてるなんてなぁ…
有り得ないだろフツー」

不機嫌そうな声で
ぶつぶつと悪態吐くクライドに、
レイガは苦笑した。

「まぁそう言ってやるなクライド。
…父上のした事は
決して許される事ではない…
しかし、母上と一緒ならば、
化けて悪さを働く事もないだろう?」

「母上もいい迷惑だな…」

そんな2人の数歩後ろ。
ラシェは青い花の花束を携えて立っている。
2人のやりとりに
ふふっと笑いながら、空を仰ぎ見た。

「──…いい天気ですねぇ…」

墓の周りを包む様に茂る木々が、
さやさやと風に揺れ、
木漏れ日がゆらゆらときらめき
3人を暖かく照らしてくる。
ラシェは手に携えた花束を、
初めてここに来たとは思えぬ程
慣れた手付きで墓石に供えていく。
そうしてくれる彼女を、
クライドは複雑な気持ちで見ていた。




父上は…

父上の所為で彼女は
住む場所も家族も全て失ってしまった。



……父上は討った。
狂ってしまったあの人を
結局俺達はどうする事も出来なくて
討たざるを得なかった。

彼女に対する仕打ちを想うと
不思議と、躊躇いはなかった。

だが、
彼女は決して喜ばず
反対に俺に謝ってきたのだ。

“ごめんなさい”

“貴方達の手で
肉親に手をかけさせてしまって…
本当にごめんなさい…”

と────…。




綺麗に墓前を整え、
ラシェは穏やかな笑顔で墓石に触れた。

「…初めまして、王妃様。
王様には…一度お会いしましたね。

…不束者ながら、宜しくお願いいたします」

そう言ってラシェは
深々と頭を下げた。



父上に彼女を紹介する気などさらさら無かったが、
“では、母上には紹介しろ”
とレイガに言われ渋々従ったクライド。

…そう、それは
新しくグランローグへ迎える、
自分の伴侶として───…。

あの日──…
彼女に求婚して承諾を得た日から暫く、
俺達しか立ち入れないあの場所に
君を連れて墓参りに行く、と告げると
ラシェはとても喜んでくれた。
だってそれは、
『家族』になったからこその権利だから…。



クライドはラシェの隣にスッと立ち、
墓石を睨みつけた。


「…悪いけど、
あんたがこの子から奪ったものは
全部俺が取り返す。
居場所も、家族も」

そう言って前を睨みつけたまま
おもむろにラシェの手を取った。
ギュッと握りしめ、クライドは続ける。

「いいか、くそ親父。
俺は、グランローグの呪詛も解呪して、
恐れる事なくラシェに『家族』をあげる。
…あんたが最後まで叶わなかった、
あんたが成し遂げたかった一番の野望だ。

俺は絶対に叶える。
あの世で精々羨ましがれ!」

「クライド…」

ラシェがびっくりして目をパチクリさせると、
後ろで様子を見守っていたレイガが、
はは!と声を上げて笑った。

「確かにそれは
父上の最大の野望だったろうな。
…あの人は、母上が愛し過ぎて
2度欲望に負けてしまったのだからなぁ…」

…だからこそ
レイガもクライドも
今、この世に存在するのだが。

レイガは困った様に笑い、
クライドの隣に立つラシェの反対隣に立った。
ポンとラシェのその肩に手を置き
穏やかな目をして墓石に目をやる。

「…無論、
微力ながら、私も貴方を越えさせて頂く。
…母上が私を産んで尚 早逝せず、
クライドを産み、5年も生き長らえていた事は
少なからず、
呪詛の解呪に繋がる事であろう───。
さすれば、あらゆる手段を用いてでも
私は、愛しい弟の愛しい者の為に
尽力し、末永い未来を与えたい」

なあ?と
レイガは彼の言葉に聞き入っていた2人に
柔らかく笑いかけた。






さやさやと
風が吹き抜ける。

墓石に手向けられた花束の青い花
澄んだ風にふわりと揺れる。

見上げた空に
暖かな眼差しを向ける
誰かの影を見た気がした。






* fin *