ちょっとしたSS・6『月の力、精霊の力』
はじめに
今回は原案の小説の方から
クライドとバトー等
魔法に強いキャラが目立つお話を持ってきてみました。
カミアさんの故郷『エルフの里』でのお話です。
宜しければお読み下さい(^^)
相変わらず中途半端から始まり、
中途半端に終わります(^^;)
※細かい説明いらねーやい!って方は、
目次から〔 オリジナルより抜粋『月の力、精霊の力』〕を選んで飛んでください。
【目次】
登場人物
少し設定は違いますが、『PFCS』に参加させていただいてる子達でもありますので、
良ければこちらを参照して下さい。↓
◉【PFCS】うちの子達。と、竜神様の試練、加勢します! - テキトー手探り創作雑記帳
◉【PFCS】女の子描くのが楽しい件。 - テキトー手探り創作雑記帳
◉【PFCS】以前ツクールで作ってたマップと新キャラ紹介 - テキトー手探り創作雑記帳
(早見表を早よ作らにゃ…)
『PFCS』参加者様への注意事項
◉以下のSSは、『PFCS』に参加させていただいてる子達の元ネタのお話から一部を抜粋して載せています。
◉魔法の概念や世界観など、『PFCS』用には書き起こしてません。過去に書いたオリジナル小説からそのまま打ち出しています。
この世界では、『闇』と『光』の魔法は なかなか使い手がいない為、特別扱いされてます。
◉文章中の単語について
『サガ』→『クライド』
『クォ』→『クォル』
『ラミ』→『ラミリア』
◉コードティラルとグランローグがまだ戦争をしている時期のお話です。
『PFCS』にはその後の平和になった国での彼らを参加させているつもりです。
実は個人的に、彼らのアフターストーリー的に楽しませて貰ってます。てへ(´>∀<`)ゝ
◉あくまで、彼らや町の雰囲気の参考程度に読んでいただければ幸いです。
(口調などは『PFCS』では誇張して表現しています。クォルは『PFCS』では基本『俺』ではなく『俺様』です(^^;))
上記をご理解の上、お読みいただければと思います。
ややこしくてスイマセン(^^;)
実はこの話の直前はこちら
オリジナルより抜粋『月の力、精霊の力』
コードティラルから馬に乗って半日程南下した先にある、
広大なエルフェリア大森林の奥に位置する『魔法種族・エルフ』の自治区
…通称『エルフの里』。
サガ達はコードティラルから、馬に乗り 早朝より出発してやって来た。
木々に囲まれ、緑豊かな森の中、エルフ達が住んでいるというこの里は、町というより村…集落の様な集合体で、建つ建築物も木々で作られ、犬や馬、鶏、牛など牧畜たちも辺りに沢山居て、牧歌的な雰囲気をしている。
「ふあ~。いい場所ねぇ~。」
里の入り口手前で馬を降り、手綱を引きながらラミがうーんと伸びをした。
同じく馬を引きながら、クォもそうだなぁと辺りを見渡している。
「のどかですね。」
「まぁそう…だな…。」
ラシェも馬の手綱を引き、サガはその後ろを付き添う様に歩いている。
ラシェは一人ではまだ馬に乗れないので、ここまではサガの馬に乗せられて来ていたのだが、降りてからは“せめて引く位はします!”とサガに代わって馬を引いている。
里の入り口の所で止まり、サガ達は、一足先に里に入って面通しをしてくれているカミアが迎えにやって来るのを待った。
そこで、バトーがふとサガの顔を見て、口を開く。
「…あのさ、お前、気付いてるか?」
「あぁ。恐らくお前が思った事と同じ事なら俺も…。」
神妙な面持ちで、サガがそれに答えた。
何の事か判らず、クォ、ラミ、ラシェは首を傾げる。
「どうしたん?バトーちゃん、サガちゃん。」
クォがそう二人に尋ねると、バトーが面倒臭そうに顔をしかめて答えた。
「…ここ、『魔法種族・エルフ』の里にしては神聖結界が
「へ?」
言われて何の事か判らないクォが素っ頓狂な声を出した時、丁度里の奥の方からカミアがやって来た。
「あ、カミア。」
「みなさん、お待たせしました。長と姫様の所へご案内しますので、ひとまず乗ってきた馬をそちらの馬小屋の方へ…。」
そう言われ、手綱を引いていたクォとラミとラシェの三人は、言われた方の小屋へとそれぞれの馬を引いて誘導した。
ただ、いつもと同じ様な穏やかな口調だが、そう言いながらもカミアの表情には明らかに少し曇りがある。
それに気付いて、サガがカミアに尋ねた。
「カミアさん。…
そう言われ、カミアがハッとしてサガを見る。
サガは神妙な顔のまま続けた。
「…さっき、バトーとも話してたんだ。エルフが治めてるトコって位だから、そりゃ凄い神聖結界が張られてるだろうなって俺は思ってたんだけど、
…里の入り口まで来ても結界の魔力がコードティラルと変わらないくらいだ。」
サガは“これくらいなら、ラーディアがくれた結界無効化剤使わなくても済みそうなくらいだし”などと思いながら、バトーに同意を求めた。
それにバトーもコクリと静かに頷く。
「例えて言うなら、
ここのは、皮を無理矢理剥ぎ取られた様な感じの結界、だな。」
そう言って、とりあえず俺も置いてくる、とバトーが綱を引くのと同じ頃にクォ達が入れ違いで馬小屋から戻ってくる。
「えっ、ホントに何かあったんっ?」
カミアとサガの神妙な顔に、クォが戻ってくるなりギョッとする。
「俺やラミは結界の魔力とか感じ取れないから判らなかったけど…。何かあったなら、力になるぞ、カミア?」
「そうそう!エルフさん達にはいっつもお世話になってるんだから!」
そう言われ、カミアが困った様な顔をして、それからバトーが戻ってくるのを見計らって口を開いた。
「…わたくしも異変を感じて、先程ここの者達に話を伺ったのですが…。
実は先日、何者かに、ここの結界を少し破壊されたそうなのです…。もう少し早くにコードティラルに知らせが入っていれば、飛んで駆けつけましたのに…。
里の中に侵入こそされては無い様なのですが…何せ今までに無かった事ですので、里中が混乱している様で…。
姫様も負傷されておられるので、どうしたものかとは思っているのですが…。」
「…大変!お姫様がお怪我をされているんですか?」
少し青冷めた顔でラシェが声をあげると、カミアが安心させる様に笑った。
「あぁ、大丈夫ですよ。
負傷と言っても、魔力的な意味なので、身体的な怪我はさほど有りませんでしたから。
…ただ、今回のラシェさんの『儀式』が少し遅れてしまいそうで…。皆さんには少しこちらに滞在して頂く事になりそうです。」
「わかりました。私はいくらでも待ちますので大丈夫です!何かお手伝いできる事があれば言って下さい!」
「有難うございます。…ひとまず、詳しい話は
そう言って、カミアは改めてサガ達を里の奥の方へと促した。
カミアに連れられて来た場所は、里の居住区の奥の方の、ひときわ大きな建物。
手前の方は人が住む様な造りをした建物だが、その奥の方に十字架の掲げられた聖堂の様な建物が併設されている。
“…ここ、多分『領域』…だな。
この里を囲んでる神聖結界なんて比べ物にならないくらいの『神聖魔法』の魔力が溢れてる…。”
サガはその建物を仰ぎ見るように顔を上げた。
“さすがエルフの長が住む場所というか…。
ラーディアから貰った薬は事前に飲んでおいたけど…。それでもこんだけ魔力が伝わってくるって事は、油断は禁物って事か…。
ひとまずは、あの聖堂には入らない様にしないとな…。”
建物に近づいてから、身体中にビシビシと、絶えず何かが突き刺さる様な感覚がある。
周りのラシェ達に気取られない様、サガは小さく一つ深呼吸した。
「…奥の方はティザーラ様を奉る聖堂、手前の方が
そうカミアに促され、サガ達は屋敷の中へと足を踏み入れる。
屋敷の奥の案内された応接室の様な部屋には、数人のエルフ達と共に、明らかに周りにいるエルフ達とは纏うオーラの違う、緋色の髪をしたエルフの青年が待っていた。
「
カミアがそうサガ達を紹介すると、緋色の髪のエルフの青年がニコリと笑った。
「そうか。
…初めまして、コードティラルの方々。
私は現在この里を治めている者で、…名は、ディレイと呼んで頂ければ。
…いつもカミアがお世話になっている。」
緋色の髪の青年…ディレイは、そう言いながらサガ達にペコリと頭を下げ、彼らに座るようにと促した。
サガ達が彼に自己紹介しながら挨拶を返し、促されるままソファにそれぞれが座るのを見届け、自分も彼らが座ったソファと同じ卓を囲む一人掛けのソファに腰掛け、ラシェの方を見る。
「君が、今回『儀式』を受ける子だね。…成程、確かにカミアからの報告通りに綺麗な『光』を纏っている。」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
ディレイにそう微笑みかけられ、ラシェは恐縮するようにぺこりと頭を下げた。
そんな会話を横目に、ラミとクォがきょろきょろしながら、ひそひそと小声で話をしている。
「(
「(馬っ鹿アンタ、そもそもオーラが違うっしょ、私らとはっ)」
魔力が感じ取れないこの二人でも、何か感じ取るものがあるんだな。
サガはそんな事を思いながら、こそこそ話をするなと二人の頭を小突いた。
そんな様子を見て、ディレイが優しく笑う。
「いいよいいよ、いつも生活する通りに自然に居てくれていい。
私などここを取り纏めている者に過ぎないから、気など遣わなくて構わないよ。ここにいる者達にも、だ。
どちらかと言えば、コードティラル王家に仕える君達こそ立場が上になる…。」
「我々はそんな大層な者では無いです。それに、ディレイ殿は我らより豊かで綺麗な魔力をお持ちだ。…長き経験の為せるものです。我らなど、遠く及びません…。」
そう言いながら、なぁ?とバトーが同意を求める様にサガの顔を見た。
サガは それにこくりと頷いて答える。
ははは、とディレイがにこやかに笑うと、ふとサガ達の顔を見回した。
「ふむ…我らなど、『宿る力』を悟れる力を持つに過ぎない…。
そうだな…
例えば、クォ殿とラミ殿は『魔力』が使えないようだが…実に澄んだ『気』を持っているな。
武術とは、『魔法』にない『気』を扱うもの、剣であろうが拳であろうが関係は無い…澄んでいる『気』を纏っているという事は、その身は大気を味方につけているという事だ。
…しかし未だ未熟…精進されよ?」
にこやかにそう言われ、クォとラミは、それまでただ物珍しそうに見ていた眼差しを、途端に ほわぁあぁと輝かせ、ディレイに食いつくように感嘆した。
「わわ、ディレイさん、すっごぉい!師夫と同じ事言ったよ!」
「エルフって武術も判るのかっ!それとも
どうやら、一瞬にして二人にとって尊敬に値する人物になってしまったらしい。
暖かな微笑のまま、ディレイは今度はバトーの方へ顔を向ける。
「…バトー殿は…この大陸のものではない血を汲んだ『魔力』の様だ。
しかし、まだ少し『魔力』が解放されていない様に見受けられるな…。
だが、必ずや真の『力』は貴殿に宿っている。魔力にとって『血』は、最も尊き重んじるもの…。
『血』は貴殿に清く流れている。」
「……。肝に、銘じます。」
バトーは何かを含むように一瞬だけ唇を噛み、そしてそう答えると深々と頭を下げた。
だが何か気付いたらしいディレイは、柔らかな微笑のまま少し目を閉じ、そして今度はサガの方に顔を向ける。
「サガ殿も…『血』の力が非常に強いな。
我々エルフとかなり似ているが…真逆の様に違う様だ。
…そうか、カミアの言っていた『黒い力』を持っているのは貴殿か。
長く生きてきたが、こうして『黒い力』を使える者を初めて見たな。」
「……。」
サガは思わず言葉を飲んだ。
“…通常の魔力の放出は極力抑えてる筈なのに流石だな…。
俺が魔族とまでは判ってないみたいだけど…
油断してたらふとした拍子にバレそうだ…。”
そう心の中で思いながら、サガはディレイに答えた。
「俺も、驚きました。ここの方々はみんなカミアさんくらいの魔力は持っているんですね…。というかむしろ強いような…。」
そう言いながら、サガは先程からディレイの後ろの方に静かに控えているエルフ数人を見渡した。
彼らはその言葉にとんでもないと頭を下げる。
「あら、サガ。わたくしなんてまだこの里では若輩者ですわ。」
ふふふと笑いながらカミアが口を挟んだ。
「ここに居られる方々は、
「そうなんですか?」
「えぇ。
こちらの方々は、もう何百何千と言う月日の中で、身の内に秘めた『魔力』を高く練り上げておられます。
わたくしなどと比べるなど失礼ですわ。」
そう言ってカミアはまた、ふふふと笑った。
“な、何百、何千…?”
その場に居たエルフ以外全員が思った。
“…みんな、自分と同じくらいの歳にしか見えないんですけど…。”
サガ達が一瞬固まったのに気付いたのか気付かなかったのか…ディレイは一つ深く呼吸を整え、話題を変えた。
「しかし本来、こうして…いつもカミアがお世話になっているコードティラルの方々が来訪されて、しかも『儀式』を受けられる方が久々に現れたというのに、娘の方は今、魔力の消耗が激しくてね…ご挨拶が出来ずにすまない。」
「いえ、そんな!こちらこそ何やら大変な時にお邪魔する事になってしまって…。」
ラシェがペコリと頭を下げる。
それを見やって、サガがディレイの方を向いて口を開いた。
「…カミアの方から事情は少し伺いました。折角この時に我々が来たのも神の思し召しかもしれません。事の詳細の方をお教え願えますでしょうか?何かお力になれるかもしれませんし…。」
「そうだな…本来お客人のお手を煩わすなどもってのほかだが…。実際我々もお手上げなのだ、人間の方々にお知恵を貸して頂くのも手かもしれない。」
ふぅむ、と一つ唸り、ため息をつくと、意を決した様にディレイは話し始めた。
「里の結界が破られたのは5日程前だ。我らの張る結界が破られるなどここ数百年の間、前代未聞でね。張り直しはしたのだが、すぐにまた破られた。
ここ数日はその繰り返しだ…。
娘はこの里では私の次に魔力が強い。有事に備え、結界の補修や保持に携われない私に代わり、結界を張り直していたのだが、それも限界ですっかり消耗してしまって…。
今は娘に代わり、里の者が手分けで結界を維持しているがいつまで持つか…。」
「だが未だに犯人の侵入なし、か。…それも時間の問題だよな…。
…バトー、どう思うよ、これ?何かさぁ…。」
サガがバトーに意見を求めるように彼を見やる。
城の面子の中で『魔法』系の事柄に対して造詣が深いのは自分以外ではバトーだけだ。
何かを考え込んだような顔をして、バトーは顔を上げる。
「えっと、…ディレイ殿。姫君にお会いする事はできますか?…少し気になる事があって、会ってお話をお伺いしたいのですが…。」
「それは構わないが…、だが娘は今、声を出せなくて…、」
「「
ディレイの言葉に、サガとバトーは同時にそう訊き返した。
同時にそう聞き返され、え?と思わず二人の顔を見るディレイ達に、サガとバトーは顔を瞬時に青冷めさせて見合わせ、バトーは持ってきていた荷物の中から一冊の本を取り出しパラパラと捲って何かを探し始めて、サガはラシェに声を掛けた。
「ラシェ、ちょっと手伝って貰う事があるかもしれない。」
「お手伝い…ですか?」
「ここだと…多分、ラシェにしか頼めないと思う。」
そうサガが口にすると、その言葉を周りで聞いていたカミア達が、突然何事かと口を開きかける。
が、ようやく本の中から探していたものを見つけたらしいバトーの一声に遮られた。
「…あった!
…うん、やっぱりそうか…
…が……に、あれば…。」
バトーは本を閉じ、手短な紙に何やら図形を書き、ラシェに渡し、不安げな顔をしているディレイに説明した。
「多分…ですが、姫君は呪詛にやられてます。
まぁ、構成術式を見てみないとなんとも言えないですが。」
「呪詛?しかし、呪詛らしい陣も符も不審な者も見当たらなかったが…。」
「…俺もそこが少し腑に落ちないんですが、それ以外は全て俺の知っている呪詛の一つに酷似しています。
…で、これから、このサガと 呪詛の解呪を試みようと思います。自立で単独の呪詛なら解呪できるかと…。
本来ならば我々より魔力をお持ちのエルフの方々にお任せするのが一番かと思うところなんですが…俺やサガが想定した呪詛だと、『血』を限定できる…。
万一に備え、姫君と同じ『血』…すなわち、エルフの方々は、こちらで待機していて下さい。」
おお…とどよめきの声をあげ、ディレイ達は神妙に頷いた。
サガは先程バトーが手渡した紙に書かれた図形を指差しながら、ラシェに言った。
「呪詛にかかった人には、この印…もしくは似たような印が、体のどこかに出ていると思うんだ。まずそれを探して欲しい。解呪は掛けられた人に若干負担が掛かるから、確実に呪詛を掛けられた人にしかできない。
…体の何処かにある筈の印を探す為には…俺らは男で、姫君は女性だし…、となると、この中で魔力持っててエルフじゃない女の子は君だけ、だからね。」
「ラミさんだと駄目なんです?」
「んー。これが呪詛とかじゃなければいいんだが、呪詛だった場合、呪詛の力が、魔力を持ってないラミに何かの拍子で行ったら、ラミは気絶するだけじゃ済まないと思うからな…。」
そう言えば、先程からラミもクォも心配そうな顔をしてはいるが、何かを言おうとはしていない。
魔法を使えない自分達が口を出せる事柄ではない、と判っているからだろう。
ラシェはきゅっと拳を作った。
「頑張りますっ。」
ん、その意気。とサガはラシェの頭を撫でた。
「さて、なるべく急いだ方がいい。…姫君の所へ、案内お願いします。」
「判りました。…こちらへ、三人とも。」
カミアがすっと立ち上がり、三人を手招く。
それから応接室から出て暫くカミアの後を連いて行くと、『姫君』の部屋の前までやって来た。
カミアがまず事の説明をしに部屋に入ると、暫くしてサガとバトーとラシェは部屋へと通される。
部屋の奥の窓際の寝台に、半身を起こして彼女は待っていた。
差し込む日の光に照らされてキラキラと光り、そして窓からのそよ風でふわふわと揺れるディレイと同じ緋色の髪が、エルフ特有の綺麗な顔立ちを際立たせている。
部屋に入るなりその姿に部屋の入り口で固まる三人に、カミアはふふふと笑った。
「お美しい方でしょう?我らがエルフの姫君、シルディー様です。」
「は、初めましてっ!」
ラシェがはっとして大きくお辞儀をする。
それに釣られてサガとバトーも一礼し、改めて部屋の中へと入った。
シルディーは三人にふわりと笑うと、頭を下げる。
そして、寝台の横の花台に置いてあった紙の束の一番上の紙に、さらさらと何かを書いてそれを三人に見せた。
『このような姿で、挨拶もできぬご無礼をお許し下さい。』
その一文を見るなり、ラシェがシルディーに駆け寄った。
「そんな、謝らないで下さいっ。声が出せないなんて大変なのに!」
それにサガとバトーも歩み寄った。
「そうです。カミアさんからさっき聞いたと思いますが、少し確認を取らせて下さい。」
「何とかできるかもしれない。…カミア。」
そうバトーに声を掛けられ、カミアは一瞬グッと唇を噛み、それから深く三人に頭を下げた。
「本来ならば姫君をお助けしなければいけないのは同族の役目…。どうか、姫君を助けて下さい。」
「まかせて。」
サガにニッと笑いかけられ、カミアは安心したように部屋を後にした。
「さて、…それじゃあラシェ、宜しく頼むよ。俺らは後ろ向いてるから。」
その言葉にバトーもコクリと頷きくるっとシルディーに背を向けた。
それを確かめ、ラシェはシルディーに声を掛ける。
「呪詛の印を探します。少し肌に触れる事、お許し下さい。」
ラシェの言葉にシルディーはお願いしますと言う様に頭を下げた。
それを確認して、ラシェはシルディーに尋ねる。
「えっと、胸の方とかには無いですか?私は後ろを見ますので、一応確認してみて下さい。」
そう言われ、シルディーは胸やわき腹の方を見るが無い様だった。
「とすると…やっぱり背中の方かな…
ちょっと見てみますので、髪をこう…背中に掛からない様に持ち上げていて頂けますか。」
こくりと頷き、シルディーが長い髪を手で掬い、肩から前の方へ流そうと持ち上げた時だった。
あっ、とラシェが声を上げる。
その声にサガとバトーが振り向かないまま声をかけた。
「どうした、ラシェ?」
「あったのか?」
「はい、ありました。少し違うけど…多分これです。この位置なら振り向いてもらって大丈夫ですよ。見てみて貰えますか?」
そうラシェに声を掛けられ二人は振り向くと、シルディーの方へと近寄った。
促されて見ると、気味の悪い光を放つコイン大の大きさの印が、髪を持ち上げたシルディーの首の後ろ中央の、髪の生え際の所にある。
サガとバトーは、見つけるなりハァと深くため息をついた。
「…ビンゴ、だな。
まさか
「しかも少し特殊な細工してある。
…結界を普段張ってるのも、最初に張り直したのも貴女ですか?」
サガがそう尋ねるとシルディーはコクリと頷いた。
それを見て、サガがうーんと唸り、シルディーに言う。
「…すいません、ちょっと印に触れさせて下さい。」
それにもコクリと頷くのを見、サガが印に軽く触れた瞬間、はっと何かに気付いてラシェに尋ねた。
「ラシェ、これに触れてないよね?」
「は、はい、触れてません。」
「そっか、ならいい。
…小さくても魔法の印だからな……、これ、『闇』の力で動いてる。下手に触れたら力を吸われるぞ。
…しかもこいつ、自立してない遠距離発動式だ…。
厄介だな…対を見つけないと解呪できない…。」
ラシェとバトーが目を丸くしてサガを見る。
サガは印に触れながらもう一度意識を集中させた。
“この印を動かしてる魔力はどこから…?
…魔法種族・エルフが呪詛にかかってるのに気付かないなんて
尋常じゃない細工の呪詛だぞ…。
多分、発動のスイッチは…、”
「…
サガが集中を止め印から手を離すと、そう口を開いた。
ラシェが心配そうに首を傾げる。
「結界の修復…?」
「そう。
…エルフの張ってる結界を破るのも大した魔力だとは思うが、こいつはさらに破った後の結界を修復する者を、ピンポイントで呪詛で封じようとしてる。
元々これのオリジナルの呪詛は『血』を辿って魔力を封じるモノだ。
…ガイザートの資料室でしか見た事が無いくらいの術だけど。」
「あぁ、俺も故郷で習ったくらいだ。…しっかし、発動媒体が術式内部なんてえげつないな。しかもターゲットにしか発動しないんじゃ誰も気付かん。」
サガに同意しながら、バトーがちっと舌打ちする。
「誰かが、シルディー様を魔法が使えないようにしてるって事ですか?」
「まぁ、穏便に言えばそうなるかな。
…それだけならまだ可愛いもんだが、基本的に呪詛というものの根底は…。」
ラシェの何気ない問いに、サガは顔をしかめながら答える。
「…
「…ッ!」
その言葉に息を飲むラシェの横で、シルディーは静かに頷いていた。
『相手は、壊した結界を私が治すのを知っていたのでしょうか?』
「まぁ、基本的に結界は力がある者がするから…貴女を、というより、この里の重役を狙ったんでしょうね。」
『では、父を?』
「そうですね。可能性的にはそちらの方が高いかもしれません。…しかし穏やかじゃないな…こんな禁呪…。」
シルディーの質問に答えながら、サガはしかめた顔をより一層険しくさせた。
“この呪詛は、術者の力量に頼るところが大きいものだ。
…例えば俺の魔力なら確実に相手を殺せる…。
この程度で済んでるという事は、俺よりかは魔力の弱い奴の仕業か…。”
「どうにかなりそうかサガ?『闇』の力で動いてる呪詛なら、俺には解呪できないのは確定なんだが…?」
バトーが半ば不本意という顔でそう尋ねると、サガは静かに首を横に振った。
「呪詛の発動を結界の壊れ目に仕込んだのと、その印を動かしている魔力が結界を修復した時に流れ込んだのは判るが…そこまでだ。
そばに対の陣も符も無いとなると遠距離に発動元がある。それがどこにあるのか判らないと、こいつは手も足も出せない奴だ。
…ひとまず『魔族』が絡んでるのは判るけどな…。」
「『魔族』、ですか…?」
ラシェの問いに、サガは一つ頷いて目を伏せた。
「『闇』の力は魔物も魔族も使える…けど、高位のエルフの張った結界を破った上に、こんな手の込んだ頭を使った魔力の使い方するのは『魔族』しかない。魔物は、ただ魔法を使うだけ、だからね。」
「そうなんですか…。」
「…しかし、困ったな…試しに俺もここの結界を修復してみれば、逆に発動元を探る事が出来るかもしれないんだけど…。」
「え、でもそれって危なくないですか?だってもしかしたらサガさんも…。」
「んー。それについては俺は大丈夫。『闇』魔法相手だったら多少は無理の利く身体してるから。
ただ問題は…。」
サガは言いながら、何かの同意を求める様に、黙って話を聞いていたバトーの方を向いた。
「呪詛で自分が狙った対象目標以外の人物が結界の修復をした場合、バトーならどうする?」
そう訊きながら、半ば答えは判っているというような顔でサガに見られ、バトーはふうと一つ大きな息を吐いてそれに答える。
「…それが偶然かどうかに関わらず、
俺なら…
今魔法を封印している程度に止めている呪詛を
「ま、定石だな。」
やれやれとバトーの言葉にため息をつき、サガは困った様に頭を掻いた。
「……確かに、今、何でか知らないけど、姫君にかけられた呪詛は命を奪わず、ただ魔法を使えなくさせているだけだ。
いつ術者が呪詛を完遂させようとしてくるか判らないから、下手に手を講じる事ができない。
…姫君。」
サガに真っ直ぐと見られ、シルディーが顔を上げる。
「力になれなくて済みません。まだしばらく不便が続きますが、今しばらく辛抱願いますか?
俺たちも色々探ってみますので…。」
『いえ、こちらこそ、有難うございます。』
シルディーはニコリと笑うと深々と頭を下げた。
それから少し。
現時点では、呪詛の進行を進める引き金が仕掛けられている可能性があり、危険な為解呪ができない事、
今壊れている里の結界の修復はひとまず行わない方が安全であろうという事を里のエルフ達に伝え、
その日は持ち回りでエルフ達が里の警護に当たる事になった。
カミアは里の者達と警護に入り、
サガ達はというと、ひとまずこれから日が暮れようとしている時刻からの探索は控え、探索に備えての作戦を練る事にした。
そして、外が薄暗くなり始めた頃。
用意された食事を済ませ、サガ達は各々過ごしていた。
“……はぁ、
ここまで離れれば落ち着けるか…。”
サガは苦虫を噛み潰した様な顔をして大きく息を吐いた。
一部結界が壊されたとはいえ、ここは曲がりなりにも いたる所に神聖結界の張られたエルフの里の中。
…そして、自分達はさっきまで聖堂の傍…長の屋敷に居た。
外周を見てくると皆に伝え、サガは一人、聖堂から少し離れた場所に逃れるようにやって来ると、適度な樹の上に登ってそこに腰掛けていた。
“しかし、どうしたものかな…。
『魔族』の仕業なのが判ったはいいが、肝心の居場所がな…。
こんなグランローグ帝国から離れた辺境に居るって事は、帝国から独立した奴か…。
となると…いざって時の俺の『名乗り』も効きそうにないかなぁ…。”
ふうむと唸り、サガは空を見上げた。
外はもう丸い月が出ていて、暗い辺りを優しく照らしている。
“…ここは静かで綺麗な場所だ。
できれば無粋な奴には早々に退場願いたいところだな…。”
目を閉じて意識を集中させてみても、自分と同じ『魔族』の気配は周辺に感じない。
自分と同じ様に『闇』の放出魔力の気配を消しているのだろう。
ふう、と息を吐き、サガは閉じた目を静かに開く。
…と、ふと誰かの気配を足元に感じてサガは樹の上から見下ろした。
「…バトー、か。」
見下ろした目線の先で、蜂蜜色の髪を月の光で輝かせながら、バトーが樹の上のサガを見上げていた。
よお、と手を上げてバトーがサガに声を掛ける。
「どこまで見回りに行ったのかと思ったら…。何か判ったか?」
「いーや。…気配が綺麗に隠されててさっぱり判らんよ。」
「そうか…。」
予想通りの答えだったのか、訊いた本人のバトーはさして興味も無いように答え、サガが上っている樹の幹に背を預けた。そうして樹の幹に背を預けながらバトーが月を見上げると、サガも同じ様にして月を仰ぐ。
そして少しの沈黙の後、
「…月の…、丸い日に…、」
ふいに下からそんな言葉が聞こえ、サガは、ん?とバトーの方を見た。
バトーは構わず言葉を続ける。
「エルフの里では魔力安定の儀式をするんだそうだ…。」
「ん?…あ、あぁそうなのか。
…そうなんだよなー。俺らは元々魔法を使えたから、こっちの方のって見た事ないんだよな。
…満月の日に狙ってするのはやっぱり魔力の高まる日とかの関係かな?」
「おそらくそうだろう。…今回のラシェの儀式は本来、今日…この満月の日にする予定だったらしい。」
「あぁ、それで今日に合わせてカミアさんここに来たんだな。…今のこの状況だと次の満月まで儀式が出来ない感じだな。」
「そうだな…。儀式の巫女を務めるお姫さんがあの状態だからな。」
そう言いながら、バトーはぼんやりと自分の手を見つめた。
そしてその手を握り締めポツリと呟く。
「…俺は、まだまだなんだと思うよ。」
「?姫君の呪詛が解呪出来ない事か?…それだったら俺もだぜ?」
「…それにしたって…今回の事も…せめて俺にも他の属性魔法が使えたらとか、色々思うんだよ…。
実際、ある程度の事を確認できたのはお前だ。
…俺、『水属性』だけでも未だ不完全で……『精霊』は、魔力の気配を探す事が出来るらしいし…。」
「ん?…あぁ、昔聞いた
『バトーには精霊が居なかった』って話か?」
サガの問いにバトーは答えない。
ふむ、と唸りサガはバトーに構わず独り言のように言葉を続けた。
「ほんと不思議だよなぁ。
エルフは月の力、バトーの故郷では精霊の力、ガイザートでは研究による成果…。使う力は同じ筈なのにな。
…しかし、凄い話だよな?それぞれに水の精霊が宿ってるって話も…。
バトーの一族みんななの?」
「あぁ。十歳までに使役を完了させる。…俺の場合は十歳になっても精霊が顕現しなくてな…。」
「精霊が居ないと魔法が使えないって訳じゃないんだよなー?…今使えてるし。」
「俺が今魔法を使えるのは、お前らが使えてるのと同じ理由だよ…たまたま一族の力とは別に、魔法を使う素質があっただけ。…ただ、俺らの一族で精霊を使役するのは『当たり前』で…。
…十も過ぎて精霊が居ないなら…探しに出るしかないだろ、一族の手前、さ。」
そう言いながら、バトーはおもむろに月に向かって片腕を伸ばし、手を翳す。
「誰かの為に魔法を使って救えたら…、精霊なんかいなくたって、それでも俺には存在理由があるんだって思える気がして…。
でもままならない。
俺より凄いやつなんて幾らでも居るんだもんな…この大陸は。正直…俺は役に立ててるのか不安だよ、いつも。」
「…何言ってんだよ。俺は助かってるぞ?」
むうと顔を顰めながら、サガは樹から、よっ!と飛び降りる。
バトーの目の前に降り立つと、サガはバトーを真っ直ぐ見つめた。
「…クォやラミは魔法が判んないし、今回みたいな魔術的な事件の時、俺と色々考察できるのはバトーとだけだ。
…そりゃあ俺は確かにバトーよりか色々使えるけど、
ラシェにした話…、俺は『特化型』じゃないから、『水属性』においてはバトーには勝てる自信は無い。
大体、バトーの『氷斬剣』みたいな…あんだけ見事に成型されてる『造形魔法』は、ガイザートでも見た事が無いんだぞ?」
「……。褒めても何も出せんが…。」
「あのなぁ。俺は思ってる事言ってるだけ。
第一、俺だって出来ない事は沢山あるぞ?俺には、人間の力が使えない…。」
「え?」
サガの言葉の最後に違和感を感じたバトーが、何の事かと思わず彼の顔を見る。
…ただ、その瞬間…。
「…っ…⁉」
「……いっ…て…!」
突然、二人の耳を劈くような音を立てて空気が振動し、辺りの気配が一変する。
身体の底から突き上げてくる激しい悪寒に似た様な感覚に、耳を押さえながらバトーは、キョロキョロと辺りを見回した。
「おいサガ…これって…!」
「あぁ、『闇』の魔力の気配だ…。」
神妙な顔でサガが答えた時、遠く長の屋敷の方からバタバタと何人かが走ってくる。
長の屋敷に居たエルフ達だ。
サガとバトーの姿を見かけ、その内の一人の青年が二人に慌てた様子で声を掛けてきた。
「サガ様、バトー様!ここに居られましたか!大変です!」
「…何かあったのか?」
「は、はい!あの…っ。」
走っていた所為で乱れた呼吸を整え、その青年は青冷めた顔で二人にこう告げた。
「姫様と…一緒に居られたラシェリオ様が、その…っ、何者かに…!」
『月の力、精霊の力』*fin*
おわりに
凄いとこで切ってすいません
(´>∀<`)ゝ
文字数のキリのいいとこがココでした(笑)
『ちょっとしたSSシリーズ』は、
私が中学頃に10mm方眼ノート
13冊くらいで書いた小説を、
数年経って
うちの上の子を私が妊娠中に
『めっさヒマ』(ひ・ω・ま)
と思って
パソコンに
改めてちょろちょろ推敲しながら
書き起こしたものなんです。
で、
それのストックがそろそろ無くなります(ぇ)
書き起こす隙が取れないので
多分
次載せるの(今回の続き(話途中までで、まだ攫われっぱなしですが))か、
その次載せるの(せっかくなので物語の始まり部分を)で
『ちょっとしたSSシリーズ』は終わりです。
間を端折ってたりするので
読みづらいままですが
また折を見て話の流れ順に並べ替えたいと思ってます。
…どっちにしろ
中途半端に終わりますけど(笑)
昔まで使ってたワープロにも
少しデータあるんですが
…フロッピーからデータ移せないっていうね(笑)古過ぎてσ(^_^;)
毎度ガチャガチャ剣で遊んでる彼らですが
(↓先日のお話)
yourin-chi.hatenablog.jp
今回載っけたお話で、
彼らが
少しでも頭良さそうに思って頂けたら
幸いです(笑)
普段は育児に追われております…
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