テキトー手探り創作雑記帳

創作企画PFCS中心ブログ。書いたり描いたり。

【PFCS】SS・ヴィランズストーリー〜リーフリィ〜4『契約』

はじめに

約半年ぶり(^^;;
ヴィランズSSをお送りします。

久しぶり過ぎの本編ですので宜しければどうぞ↓
(第一話)
【PFCS】SS・ヴィランズストーリー 〜リーフリィ〜1 - テキトー手探り創作雑記帳
(第二話)
【PFCS】SS・ヴィランズストーリー 〜リーフリィ〜2 - テキトー手探り創作雑記帳
(第三話)
yourin-chi.hatenablog.jp
(↑今回は三話から引き続いている内容です↓)


少々長くなってしまったので
お気を付け下さい。




ヴィランズストーリー〜リーフリィ〜4

契約

謎の魔族に襲われてから2日が過ぎた。

ラシェはあれから、ずっと目を覚まさず眠っている。
クライドはそばについていてやりたい気持ちを抑えつつ、先日襲われた場所にワーロックとやって来ていた。




「…異様だな」

それがこの場所にやって来たワーロックの第一声だった。

元々年中雪に覆われ肥沃な土地では無い為 少々荒れているのが常ではあったが、辺りに雪は無く、露出した地面はどす黒く…まるですっぽりと影に呑まれたような様相を呈している。

「黒く染まった部分は全て魔力の残滓の影響によるものの様だ。しかし、それでいて魔力源が分からない…殿下、心当たりは無いのか?」

「…正直、ここまで強力な『闇』の魔力の持ち主、俺に心当たりは無い。
…だけど、もしかしたら」

言いかけて、クライドは口にするのを一瞬逡巡した。

自分には黒い塊にしか見えなかったアレ●●を、ラシェは眠り込む間際、確かこう呼んだ。

「“テリィ”…、“お兄ちゃん”…」

「ん?誰の事だ、それは」

「ラシェがアイツを見てそう言ったんだ。…あの黒い影に」

「…ふむ…。
魔力を直に叩き込まれたラシェリオ殿には、影の主が見えたのかも。
もしかして旧知の誰かに似ていたのか…。目を覚まされたら尋ねてみる価値はあるかもしれないな」

「…ああ」

そうワーロックに答えながら、クライドは少し…それを躊躇おうとする自分を自覚していた。

…ラシェは、あの時
あの名前を口にして、涙を零した。
目を覚まさない間、度々口にして
そして涙を流す。
“お兄ちゃん”と呼んでいたけど、
確か以前に、ラシェは自分は一人っ子なんだと聞いたから、血縁の兄では無いのだろう。

全く知らない相手ではあるが、
“テリィ”と呼ばれたその相手とラシェには
深い絆の様なものがある気がして…。

胸の奥をチリチリと焼く様な
言い様の無い焦燥感と不安が、
あの名前とラシェの涙を見てからずっと
自分の脳裏に絡み付いて離れない。

「…たったアレだけで…。
やましいな、俺は」

クライドはポソリと呟き、自嘲した。





******


暫く調査して城に戻ると、クライドを見かけてティリスが駆け寄ってきた。

「殿下殿下〜。お疲れ様ぁ」

「ティリス、ラシェは?」

女性が元々少ないグランローグの城内に、『侍女』など居ない。
基本的にラシェが来た時の身の回りの世話は、懐いているティリスがしていて、今回も看病の任を任せている。

ティリスはニコニコと答えた。

「今 陛下とグレンが来てて見てもらってるー」

「そうか」

「えへへ、
でさ…ちょっと、殿下が帰ってきたら確認しようと思った事があって」

「…?なんだ」

何気無く訊き返してティリスを見ると、いつになく眼差しが真剣な気がする。
ティリスがチロっとワーロックに目線を送ると、首を傾げながらもワーロックが ふむ、と頷き、クライドに頭を下げ、スッと下がって奥へと行ってしまった。

「…?」

「殿下、ちょっとこっち」

言うなり、ティリスはクライドの手を引いて人目のつかぬ位置に移動した。

「…何だよティリス、確認したいことって」

「ラシェ様の事」

「ラシェの事?」

訝しげに首を傾げるクライドに、ティリスは ううんと、と少し逡巡し…口を開いた。

「…ラシェ様、過去に大きな怪我…した事ない?」

「大きな怪我…?」

「うんと…例えば全身に強力な魔法食らった、とか」

大きな怪我、に繋がったかどうかは治療してないしその後普通に過ごしているので分からないが、“全身に強力な魔法を”というフレーズには心当たりがあった。

…クライドは、
敵の攻撃から1度だけ、ラシェに身を呈して庇われた事がある。

戦争も末期の頃、強力な『光』の使い手であるラシェは、グランローグに捕らわれた事があり…
救出こそしたものの、度重なる戦いで魔力が遂に切れてしまったクライドは、追っ手から逃れる最中に倒れてしまい、対する魔族に狙い撃ちに遭った。
その時、魔族の攻撃からクライドを庇ったのがラシェだ。
相手は魔族であり、放たれたのは強力な『闇』の魔法で、『光』に属するラシェは瀕死の疵を負ってしまい、1週間は目覚めなかったという事があった。

「確かに、心当たりは有るけど…でも」

だが、その時の治療役をしたのはシルディとカミアで、彼女達の実力からすると、傷痕など残さず治療されただろうと思うし、ティリスに知られる様な事にはならない筈…。
クライドは まさかと口にしかけて言葉を飲んだ。
先程から、いつも無邪気なティリスが、いつになく鋭い眼差しを自分に向けている。
ティリスは少しだけクライドから目を逸らし、一つ深く息を吐いてクライドに尋ねた。

「こんな事、僕が訊くのは本当は憚られるんだけど…。
その………殿下はさ、ラシェ様の裸って見たことある?」

「!?へ…っ?な、何だよいきなりっ、藪から棒に⁈
っていうかティリス!お前まだ子供だろ⁈何てこと訊くんだよ…⁈」

そう尋ねるティリスに、クライドは一瞬で顔を赤らめて怒鳴った。
ティリスも釣られてか赤面して言い返す。

「これくらい恥ずかしがらずに聞きなよ殿下!こっちが恥ずかしくなるじゃん!
ただ僕は、殿下が、ラシェ様のあの傷●●●の事、知ってて放ってるのか気になっただけだよ!」

「…あの傷●●●…?」

クライドはポカンと口を開けた。
その様子に、ティリスは何かに気付いたように顔を顰め、やれやれと溜め息を吐く。

「そんな気はしたんだけど…やっぱり知らなかったんだ…
酷く魘されてて、寝汗が酷かったから、少し体を拭いてあげようと思ってさ…
そしたらあんな傷があるんだもの」

「き、傷って…そんな、お前が気にするほどの傷が、有るのか⁈」

クライドが血の気の引いた顔でティリスの肩を掴んで 食い気味に訊くと、ティリスは若干怒った様に目を吊り上げた。

「気にするどころじゃないよ。
…いつ付いたのか知らないけど、女の子の体に…まして可愛らしいラシェ様には おおよそ似付かわしくない様な…大きくて、酷い傷痕だよ…」

ティリスはそう言いながら苦虫を噛み潰したような顔を見せ、自分の体を指差し、胸元から下腹部までズバッと切る様な手振りを見せた。
…どう考えても、あの時に負った傷だろう。
でも、何で?
考える程、頭の中が真っ白になっていく。
ティリスはムッとした顔のまま、更に続けた。

「僕は神聖魔法の事はよく分からないけど、殿下がその心当たりの件から全く気付いてないまま、ずっとあの体に残ってるって事は、
…あの傷、もう消えないんじゃないかな●●●●●●●●●●●●●

…ティリスの言う通りだ。
あれからもう3年は経過している。
小さな傷ならともかく、半身にかける程の大きく…魔法で負った傷なら、止血したにせよ、魔法の残滓が少なからず刻み込まれた傷口から体に浸透して定着しているだろう。
傷口から魔力を抜き、完全に傷を消さなければ、常に病に体が蝕まれているのと同じ筈…。
…まして、ラシェは『光』の魔力を内包する人間だ。
傷痕が残ったままの数ヶ月は痛みも有っただろう。
完全に消しきれなかっただけだとしても、ティリスが見て慌てるほどの痕にはならない筈だ。

…わざと、としか思えない。
どうして、そんな事を…?

クライドが蒼白した顔のまま固まっていると、ティリスは呆れた様に眉を顰めた。

「本当に知らなかったんだね…。
…グレンさん達が2人の結婚を焦るはずだよ…」

「そ、それとこれとは…」

「一緒な事!2人が付き合いだしたの、島内戦争末期だろ?…って事は3年じゃん!その間、1度も見た事がない●●●●●●●●●なんて…」

「俺はただ…あの子を失いたくないだけだ」

クライドは視線を泳がせ、グッと拳を握り締めた。
やれやれとティリスは肩を落とす。

「僕はまあ、殿下がラシェ様と仲良くしててくれるだけで充分なんだけどさ。
…もしかして、ラシェ様に、エフェメラ様が何故亡くなったのか●●●●●●●●●●●●●…話した事無いの、殿下?」

「…ああ…」

「ラシェ様は、絶対 殿下の言葉を待ってるよ。結婚したって、それだけ●●●●なら何の影響も無い筈じゃないか。
何も言わないまま、ただ、今のままでいるのは、流石に不義理だと思う…ラシェ様が可哀想だ」

「………」

「ごめんけど、僕はラシェ様の味方。…ラシェ様に、きちんと全部話して、選ばせてあげてよ。
ラシェ様なら、多分、真実を聞いても変わらないと思うよ」

ティリスの言葉に、クライドは首を横に静かに振り、頭を押さえた。

「…だから、怖いんじゃないか…」

吐き出す様にクライドがそう口にした時、ふいに2人のそばの空間が割れる。
ん?とティリスがそちらに顔を向けると、ワーロックが血相を変えて現れた。

「失礼する。
…殿下、ラシェ様の意識が戻りそうだ。急ぎ、お部屋に」

「本当か⁈」
「ホント⁈良かったぁ」

現れたワーロックの言葉に、ティリスはクライドと共にぱあっと顔を輝かせると、クライドの服の袖を少し引き、耳打ちした。

『さっきの傷の話は誰にもしてない。
あとの事は殿下次第だからね』

それだけ言うと、ティリスはクライドをトン、とワーロックの方へ押した。

「僕もすぐ行くから、殿下を先にお連れして」

「わかった」

ワーロックがクライドを連れ空間の割れ目に消えると、ティリスは んー!と軽く伸びをして、パンパンっと自分の頬を叩いて鼓舞した。

「まったくもう。
あーいう話は僕には荷が重過ぎるんだからね…殿下ったら」

それだけボヤくと、ティリスもいそいそとラシェが眠る部屋へと向かった。





******

ラシェがぼんやりと目蓋を開けると、クライドが心配そうな顔で覗き込んでいた。
周りにはレイガ達の姿。
ハッとして体を起こそうとしたが、全身に思う様に力が入らない。

「まだ、無理に動かない方がいい。
大量に叩き込まれた魔力を一気に全部抜いた反動で、体が追いついて無いんだ」

起きようと弱々しく力を入れるラシェを、クライドは優しく髪を撫でて諌めた。

「あの…私、どれくらい…?」

「2日ぐらいかな。目を覚ましてくれてホッとしたよ」

クライドが安堵した様にそういうと、周りでティリス達もうんうんと頷いている。
レイガもクライドの隣に立ち、ラシェに話しかけた。

「私がそばに居ながら済まなかったな、ラシェリオ。…暫くはこの城で安静にしておくといい」

「ううん…。ありがとう、レイガ」

ラシェの言葉にフッと穏やかに笑うと、レイガはスッとそばから離れた。

「さあ、お前たち。安堵できたなら、クライドに任せて執務に戻るぞ」

「はっ」

レイガが静かに部屋から出て行くと、ワーロック達もペコリとラシェとクライドに一礼し、部屋を後にした。
ティリスは、あ、そーだ、とクライドをラシェから離れた所へ手招きして、にこにこと小声でクライドに言った。

『えっとぉ、水はそこ、着替えはあっち。
あ、倒れた時の服は、今洗って乾かしてるんだけど、
…この城、大した女の子の服が無くて、汗も酷かったし、今 必要最小限しか着せてないから気を付けてあげてね☆』

『⁈ぇ…っ』

『ぇ、じゃないよ。しっかりしなって殿下。
多分ラシェ様は傷の事は隠してるみたいだし、ラシェ様が自力で動けるまでは、陛下達にはこの部屋来させない様にするから、困ったら僕でも呼んで。その辺に居る様にするから』

『いや、ごめん、既に困った…困ってる…困るだろ…』

『もー。そういう困ったは訊かないよー。
…じゃ、しっかり、殿下☆』

止めようとしたクライドの手が虚しく宙を彷徨い、何食わぬ顔でティリスはラシェにヒラヒラと手を振って部屋を出て行ってしまった。
頭を抱えて固まるクライドに、2人のやりとりをぼんやりと見ていたラシェが、不思議そうな顔をして声を掛ける。

「どうか…しましたか…?」

「な、何でもない、何でも!」

色々振り切る様にブンブンと首を横に振ると、クライドはラシェのそばまで戻り、すぐ横に置いてある椅子に腰掛けた。

「…あ、ああ…、えっと、喉、乾いてない?」

「?…はい、少し…」

「分かった」

サイドテーブルに置いてあった水差しから、水を移した水飲みを、ラシェの口元に持っていき少し飲ませると、クライドはそれをぼんやりと見つめ…無意識のうちに 一つ ハァ、と溜め息を吐いた。

「クライド…?」

呼ばれてハッとすると、ラシェが眉尻を下げてこちらを見ている。
クライドが しまったと思うより先に、ラシェが、不安そうに口を開いた。

「あの…やっぱり、何かありました…?」

「だ、大丈夫!…ラシェが目を覚まさない事以上の事は、何も…起こってない」

クライドは咄嗟にそう返したが、ラシェは少し困った様に苦笑した。

「……でも、それだと…。それ以下の事は起こった…という事ですよね…?」

「……っ」

「……。
…すみません、起こして頂けますか」

ラシェがそう言ったので、クライドは素直に従った。
ティリスの言っていた必要最低限の物として、彼女はどうやら少し大きめのシャツしか羽織っておらず、起こしたその背中に触れた瞬間、直に触れている様な感触を指先に覚えて、クライドは内心いやに意識してしまう。
悟られぬ様、起こした背中にそばに置いてあったクッションを充てがって彼女を縋らせると、クライドは素早く手を引っ込めた。

「(…ああもう…。ティリスが余計なこと言うから…)」

内心気付かれやしないかとヒヤヒヤしたが、まだぼんやりとした感じが抜け切らないのか、ラシェは特に気にする気配も無く、ふぅ、とひと息吐いた。
まだ、身体を起こすのも疲れるのだろう。
ラシェはまだ少し顔色が悪く、クライドに改めてゆっくりと口を開く。

「…聞かせて頂いて良いですか…?」

「あ、ああ…」

クライドは少し逡巡し…ひとまず、あの謎の魔族の事をまず尋ねる事にした。

「…あのさ、ラシェ。“テリィお兄ちゃん”って、誰だ?
あの影みたいな黒い魔族の事、君がそう呼んでいたんだけど…」

「黒い、影…?」

ラシェは何故かいまいちピンとこない様だ。
クライドは付け加えた。

「突然現れて、君の腕を掴んで 現れた空間の割れ目に君を引き摺り込もうとした、アイツ…」

「!あ…。
もしかして…あの時、クライドとレイガには人に見えてませんでした…?」

「ああ。何か大きな黒い影の塊にしか」

「そう…なんですか…」

不思議そうに首を少し傾げ、ラシェは改めて説明した。

「“テリィお兄ちゃん”というのは、フィアルでの…私の幼馴染です。私より、ちょっとだけお兄さんで…。あ、そういえば、クライドと同い年ですね」

「ふぅん…。
で、ソイツは、『魔族』なの?」

「いえ!そんな筈有りません!
…テリィお兄ちゃんは普通に『人間』で、私のお母さんがテリィお兄ちゃんが産まれる時に産婆さんのお手伝いしてるし…間違い…有りません」

そこまで言うと、ラシェの顔が曇った。
彼女は唇を少し噛み締め何かを堪えると、もう一度口を開いた。

「…フィアルが無くなった時、私は逃げるのに必死で…。あの時のテリィお兄ちゃんの消息は分からないんです…。お母さんみたいに、殺されて…しまったのだと…、自分の中では思っていて…
あの時、私の腕を掴んだ腕は 魔物の腕でした。姿形も、魔物を人間の体にごちゃ混ぜにした感じで…。
…でも、アレ●●は、確かにテリィお兄ちゃんだった…。
どうして…。一体…何があったの…?」

ラシェの瞳の端に涙が浮かぶ。
思わず、引っ込めた筈の手を伸ばしてその目の端を拭ってやると、ラシェはその手を取り頬に擦り寄せた。
クライドは眉を顰め、ラシェの話から何となく分かった事をゆっくりと彼女に伝える。

「…これは憶測…でしかないんだけど…。
おそらく、フィアルを襲撃した魔族の中に、皇帝の意に沿わない魔族が紛れ込んでいて、テリィを攫ったのかもしれない…。皇帝の命は“フィアルの人間を一人残らず殺し尽くせ”というものだった。戦争の時、フィアルの生き残りである君を、皇帝勅命のグランローグ兵が執拗に狙ったのはその所為だ。
だけど魔族の中には、王族より黒竜神を重んじ、強く信仰する者達がいる。
…テリィが元は人間だったというのなら、あの姿は明らかに降霊させられた姿●●●●●●●●だ。
全ての、妖怪族をごちゃ混ぜにした…『魔族』を…」

ラシェは顔を青ざめさせる。
手に摺り寄せられていた頬を優しく撫で、そのままその頭を抱き寄せると、ラシェはただ唇を噛み締めて弱々しくクライドにしがみ付いた。

…胸の奥が、俄かに またチリチリと痛み出す。

「“テリィ”は、ラシェにとって…どんな人だった…?」

思わず口を突いて出た言葉は、自分でも驚くくらいに低い声。
だが、ラシェは先程の話がショックだったのか気付いておらず、ただクライドの胸で肩を震わせ、こう言った。

「…テリィお兄ちゃんは…、昔から側にいるのが当たり前だった…優しくて、強くて………“家族”の様な人なんです…」

「………“家族●●”…」

その言葉に、ずきん、と今までに無く胸が強く痛むのが分かった。
触れるだけに留めていた手に知らず力が入り、
…クライドは無意識のうちにラシェを自分の腕の中にすっぽりと収め、強く抱き締めていた。

「!…、ッ、…く、クライド…?」

青ざめていた顔を一瞬で赤くさせたラシェは、どうしたのだろうと腕の中からクライドを見上げだが、当のクライドは自分に顔を伏せ、その表情を伺う事が出来ない。
ただ、いつに無く低く掠れた声が肩口から聞こえてきた。

「…もう一つ、…訊きたいことが、ある…」

「訊きたい…こと…?」

クライドはラシェの訊き返してきた言葉に のろりと顔を上げ、少しだけ彼女を抱き締めていた腕の力を緩めた。
そして彼女の目を真っ直ぐに見て、口を開く。

「…その、身体の大きな傷……、どうしたの」

「!…あ…っ」

ラシェはハッとした様にビクッと体を大きく震わせると、顔を逸らして慌ててクライドから離れようと体を動かした。
だが、クライドはそれを許さず、彼女の両肩をグッと掴み こちらを向かせると、更に続ける。

「…はぁ…。やっぱり傷痕が有るんだね?!」

「!、?ぇ、クライド、が…見た訳じゃない…の…?」

「俺は見てない。倒れたラシェの着替えとかしてたティリスが見つけたんだ。俺は教えられただけ。
…そんな事より!その傷…あの時●●●に付いた傷じゃないのか⁈どうして痕なんか残ってるんだっ!」

「…ッ…」

知らず荒げた声と表情に、ラシェの目に再び涙が滲むのが分かった。
…記憶の限り、ラシェに怒鳴った事など一度も無い。
クライドはハッとして、「ああ…くそ…」と口の中で呟き、何かを振り切る様に頭をブンブンと横に振ると、一つ大きく息を吐いて、もう一度改めて話し始めた。

「…君を…責めたい訳じゃ無いんだ…。
どれだけ大きな傷か俺は分からないけど、シルディさんやカミアさんなら、傷をある程度まで消す事くらい訳ない筈なのに…。ティリスが見るなり俺に訊いてくる程の痕が残ってるなんて…、
…わざととしか…思えないだろ…どうして」

縋り付く様に震える肩に頭を落とすと、ラシェが そぉっとクライドの頬に触れた。
それが恐る恐ると触れられたものだと気付き、クライドは思わず頭を上げる。
ラシェは潤んだ目で、困った様な…すまなさそうな顔をしてクライドを見ていた。

これ●●は、私が望んだ事なんです。私が、2人にお願いして…」

「だから、どうしてそんな事…!」

途轍もなく情けない顔をしていたのだろう。
ラシェはただ静かに目を伏せ、そして離してという様に身を捩ったので、今度は素直に離してやると、彼女は服の上から傷の在るだろう場所を押さえた。

「…この傷は…、私の『証』なんです…」

「『証』?」

「私なんかのチカラでも、貴方を守る事が出来た…『証』です」

「…‼︎な、…ッ」

クライドが思わず言い返しかけた言葉を止める様に、ラシェはスッとクライドの口元に手を充てる。
そしてニコッと笑うと、ラシェはゆっくりとまた話し始めた。

「…あの日、魔族に襲われたフィアルから逃げ出して、逃げ込んだ森で貴方に助けられてから…、フィアルの生き残りだからって、魔族に狙われ続ける私を、貴方はずっと命懸けで守ってくれていて…。
コードティラルのみんなもそう。私を掛け値無しに助けてくれて…。
『光』の魔力は持っていても、私は戦う力には変える事ができないし、剣も使えないし、ラミさんみたいに体術も出来ない…。
…いつも守られてばかりで、いつだって何の役にも立てなくて…だから…」

「そんな事無い‼︎‼︎」

口を押さえるラシェの手をバッと剥がし、そう声を張り上げてクライドが反論すると、ラシェは思わずビクッとして押し黙る。
クライドは構わずラシェの目を真っ直ぐに見ながら言葉を続けた。

「戦争さえなければ、君はフィアルで普通に暮らす、普通の女の子だった。戦う力なんか持たないの当たり前だろ?
それでも、無鉄砲な俺たちの怪我を、いつも治してくれてたのは誰だよ?君だろ⁈
ラミリアなんか、男所帯なところに君が来てから、本当に楽しそうにしてたし、カミアさんだって、貴重な魔法使いの弟子が出来たって凄く喜んでた!
何の役にも立たないって、…何だよ⁉︎」

「クライド…」

「…あの時、グランローグに君が連れて行かれて、俺はあのまま君を失ってしまうのが怖くて、ただなりふり構わず戦って、倒れて、…挙句、君にこんな傷まで背負わせてしまって…。今ほどあの時の自分をブン殴ってやりたいって思った事ないよ…。
俺は…、君がいるから、こうして『俺』で居られてる気がするんだ。君が傷つく姿も、君を失う事も、今は想像しただけで気が狂いそうになる…」

手にしたままだったラシェの手の指先に愛おしそうに口付けると、クライドはもう一度、彼女をぎゅっと抱き締めた。

「私なんかとか…役に立たないなんて、言わないでくれ…。『守れた証』なんか必要無い…。君が俺のそばに居て、笑ってくれるだけで、俺は君に守られてる…君が●●『証』なんだ…」

されるがままになっていたラシェの手が、そっとクライドの背中にまわり、ぎゅっと抱き返される。

「…ごめん…なさい……」

「謝らないで…。
君にああ思わせていたのは、俺がもっと、君に対して、きちんとした態度を見せてなかった所為だろうから」

「きちんとした、態度…?」

クライドの言葉に小首を傾げるラシェを、そっと離して背当てがわりに置いたクッションに縋らせると、クライドは少し大きく深呼吸し、ラシェの目を見て話し始めた。

「ラシェは、グランローグにどうして女の人が少ないのか知ってる?」

「…?えっと、よく言われているのは、『グランローグ人の血自体にかけられた呪詛の所為』…ですよね?」

「うん。
でね、グランローグ人同士の子供に女の子が産まれにくいっていうのが一番有名な話だと思うけど、本当はそれだけじゃなくて…。
対外的には伏せられてる話なんだけど、ラシェにも、そろそろ話しておかなくちゃと思って…」

「…なんですか…?」

クライドはまた一つ大きく息を吐いた。

「…呪詛の所為かどうかは分からないけど、グランローグの女性は子供を産むと数年内に寿命を迎える」

「え?」

「大概は産まれた赤子が1歳になる頃。長くても3年…。
母上は例外で、兄さんを産んで…それから俺を産んで5年は生きてたけど…。
母上は、グランローグの外側の人里に住んでた生粋のアルビダだった。…つまり、母上はグランローグ人じゃない●●●●●●●●●●●。…『血』は、この『呪詛』には関係ないんだ」

そこまで言うと、ラシェはクライドが何を言いたいのかを把握したのか、クライドを静かに見つめている。
クライドはそのまま話を続けた。

「…恐らく、契りを交わして、そのままでいれば何の問題もない話だと思う。
だけど、グランローグは女性が少なく、産まれる子供もほぼ男の子だ。種の繁栄に必死だから、結婚して子供を作らなかった者は皆無だ…。城の者ならその意識は強い。
兄さんは、一国の主だから、本当はもう既に何人か妃を迎えてなきゃいけないはずだけど、未だにそれをしないのは、相手に愛情を持たぬまま、ただ使い殺す様な扱いは出来ないって思っているからだと思う…。
狂ってしまった父上だけど、母上に対する愛情の深さは誇らしいモノだったから…。俺達は、それを知っているから、尚更、女性に対してはそうありたいと思ってる。

…コレが、今まで俺が、きちんとした態度を君に示さなかった理由…分かるかな」

ラシェはただ真っ直ぐとクライドを見ている。
クライドは目を伏せ、心を落ち着ける様に大きく深呼吸をすると、スッと目を開け、椅子から立ち上がると、静かに床に跪き、ラシェにこうべを垂れた。

「………ラシェ。
俺は前に、君の隣に居る為に 君が望む限りそばに居させてと言った。
そして、その言葉の先…。俺が今望むのは、君を俺の隣に置く未来永劫の契約だ。呪詛の戒めが無くならない限り、…君の命を、その人生全てを俺に賭ける事になる。
…君が、それを赦し、俺と共になってくれる意志が今あるのなら────…」

跪いたまま、クライドはラシェの左手を恭しく取り、両手で優しく包む。

「───“…貴女の名前に、我が王家の名を刻ませて欲しい”」

そう言うと、手に取っていたラシェの手の薬指にそっと口付け、クライドは祈る様に目を閉じ、その手を額に充てる。

…クライドには永遠の様な、ほんの刹那。

ポタ、と彼女の手に添えた手が濡れ、クライドが思わず顔を上げると、ラシェがポロポロと泣いていた。

「…ラシェ…」

クライドは手を取ったまま立ち上がり、ベッドの彼女の横に腰掛けると、空いた方の手でその涙を拭った。

「あんな話をしたばかりで、急にごめん…。ゆっくり、考えてくれればいいから」

クライドが不安げにそう言うと、ラシェは小さく首を横に振り、涙を拭ってくれた手に右手を重ね、ニコッと笑った。

「大丈夫です。
…答えは、もう、決まっていますから…」

そして、ラシェは右手に取ったクライドの左手の薬指に そっと唇を充て、こう言った。

「…“我が名と この命、王家に捧げます”」

それは、クライドがしたグランローグ王家の者が求婚の言葉を贈った時の、正式な返事の仕方だった。
クライドが何よりそれに目をパチクリとさせているので、ラシェは思わずはにかんだ。

「…それ、どうしてラシェが知ってるんだ?」

「貴方に、貴方の隣にいる者として、正式に初めてグランローグここに来た時、レイガが教えてくれたんです」

「兄さんが…」

「さっきクライドが話してくれるまで、“命を捧げる”っていう言葉の本当の意味は、深く分かっていませんでしたけど…。
ただレイガが、“この言葉が本当に持つ意味は、この言葉を使う時に分かるだろう”って」

「…たく、あの人は…」

ハァァ、とクライドは思わず溜め息をつく。
それにふふっと優しく笑うラシェの両手を、クライドは改めて取った。

「本当に良いんだね?
……まぁ、直面するのは、まだ俺達20歳にもならないし、呪詛の事もあるし、俺ももう少し我慢するから…そういう事は先の話だけど」

「え、あっ………。は、はい…、それは…大丈夫、です」

クライドの言った言葉にボッと顔を赤くしながらも、ラシェはニコッと笑った。

「それに、ほら、ルーチェちゃんの事もありますし…、私、少しも怖くないんです」

「!…あ、あー…」

『ルーチェ』は、以前クライドが召喚した事がある2人の子供●●●●●だ。
…あの子が、クライドの『想像の具現化』なのか『未来から来た』のかは分からないが…。
それでも、確かにラシェの中では心の支えになっていた様で。

クライドは困った様に笑った。

「…結局、俺に意気地が無かっただけなんだな」

「でも、クライドはずっと悩んでくれていたんですよね、私の為に…。…だからずっと、私に無理強いはしなかった」

「そりゃそうだよ。
…ちょっとでも直接触れたら、止まれる自信無いから…」

頬を染めるラシェの髪をサラリと撫でると、クライドはラシェに尋ねた。

「あ…あのさ、言ったそばからアレなんだけど…、…あの傷を、見せてくれないか」

「‼︎…え、あ、その……ぅ、うう…」

「!あ、いや!全部脱いで見せてくれとかそういうんじゃなくて…!…少し、大丈夫なトコ開けてくれるだけで大丈夫、だから…。…駄目、かな…。
…その、俺じゃなくて、ティリスだけが見て知ってるのも癪だなと思って…」

「…………」

ラシェは赤面したまま恥ずかしそうに目を伏せつつも、やがて小さくコクンと頷いた。
羽織っているシャツを彼女が胸元まではだけさせると、確かにその白い肌には およそ似つかわしく無い…火傷痕にも似た大きな抉れた様な傷痕が、胸元から少し覗いて見える。ティリスが言うにはこれが下腹部までかけている様だし…。
クライドは思わず唇を噛んだ。

「(…確かに、あのティリスが血相変えて怒る筈だ…)」

見るなり眉を顰めてしかめっ面になったクライドの視線に居た堪れなくなったのか、ラシェがはだけさせたシャツを戻そうと手を動かす。
…が、クライドは静かにその手を押さえて止めた。
そしてそのまま、クライドはその胸元に覗く傷痕に静かに口付けを落とす。

「ッ…、クライ…ド…」

軽く吸い付かれたそこが一瞬で熱を帯びた感じがして、ラシェの ただでさえ恥ずかしさに赤らんでいた顔が更に紅潮する。
クライドは少しだけ唇を離すと、そのままその胸元に顔を埋めてラシェを抱き寄せた。

「…この傷が、君にとっての『証』なら、俺には『誓い』だ。
…二度とこんな事させないから」

「……クライド…」

「呪詛の事もだけど、…この傷も、消せる方法を探す、絶対」

「…うん…」

ラシェの目からまた涙が溢れる。
クライドは顔を上げ、はだけさせていた服を直してやると、溢れた涙を掬う様に唇を充てた。
どちらともなく目を閉じ、互いを確かめる様に優しく唇を重ね合わせて…。

2人だけの時間が、ただ静かに、優しく過ぎていった。







******




少ししてから、ティリスにラシェを任せ、クライドは執務室で執務をするレイガに話をしに行った。
ラシェを襲った魔族の事、
ラシェにグランローグにかけられた呪詛の伏せられている話をした事、
その上で彼女に求婚し、受けて貰えた事。
レイガは作業の手を止め、ただ優しい目をしてクライドの話を聞いていた。

「…そうか。
…なら、尚更 本腰を入れて対応せねばならんな…」

「本腰?」

「例の…、ラシェリオを連れて行こうとした魔族の話だ」

レイガはいつになく鋭い眼をしてクライドを見た。

「ラシェリオの言う通り、奴がラシェリオの幼馴染の成れの果てならば、…恐らくまたラシェリオを狙って現れるだろう。
…そうなれば、我がグランローグ王室としては、新しく王室に迎え入れる人間であるラシェリオを、全力で守らねばならん」

「兄さん…」

「兄としては、お前達には幸せになって欲しいからな。お前達に降りかかるものは、火の粉も露も出る杭も、全て取り払うさ」

レイガはフッと笑うと、ふと机の引き出しから一つの紙切れを取り出した。
クライドがフィアルの…ラシェが幼い頃に遊んでいた秘密基地で見つけた、あの古代文字の殴り書きだ。

「フィアルに少し調査を入れようと思う。何か手掛かりが見つかるやもしれん」

レイガの言葉に、クライドはコクリと頷いた。










つづく


補足

以前書いたこちらの話を読むと、
色々と違う見方が出来ます…(多分)

(傷痕の話)
yourin-chi.hatenablog.jp

(『ルーチェ』の話)
yourin-chi.hatenablog.jp



(この話の後くらいの母の日の話)
yourin-chi.hatenablog.jp




おわりに

お久しぶりのヴィランズでした。
お読み頂きありがとうございました<(_ _*)>
今回は、ホントただのクララシェで すまない。
ヴィランズストーリーは全編クララシェなんで…ご容赦ください…

何かなっげぇなと思ったら約13000字いってた…
どんだけなの…
語彙力なさ過ぎじゃね…_:(´ཀ`」 ∠):

この話、
どうまとめたらいいかなぁと悩んでいるうちに半年…
せっかくなので6月=ジューンブライドに合わせてみました…
いやまあ正確には婚約なんだけど…

そんな訳で
積極的に露出する訳じゃ無いんですが(笑)
今年はラシェの水着姿を堂々と描きますよ!
(`・ω・´)キリッ
夏に間に合って良かった…!(本音)





合間に(息抜きで)描いたティリスらくがきー

思いの外キーマンになってしまった…







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