テキトー手探り創作雑記帳

個人的な趣味なモノを、書いたり描いたり

【PFCS】SS「鬼が来たりて」

はじめに

PFCS企画発足1周年おめでとうございます!
記念日に間に合わなかったよ ごめんね!
今回は記念日合わせではなく、
節分イベントに合わせて作った
うちの鬼っ子達が動いてくれましたので
超絶趣味に走ったSSを書いてしまいました(´>ω∂`)☆

クォルとラミリアがメインなので
期待通りに糖度は高くないよ!☆
(アダルトチームなのに おかしいな…)

節分?SS?『鬼が来たりて』


事の発端は、
ラミリア宛に1通の手紙が送られて来た事だった。


ラミリア、
お前に良い話を貰ってきた。

一度、
カイザートまで帰って来なさい。

そんな短い手紙が1枚と

上等な台紙に嵌められた、
大きめの1枚の写真。


詰所のテーブル席の片隅でこの手紙を読んでいたラミリアは、うーむと唸った。

「(コレって要は、帰って『お見合い』ってやつをするって事よね)」

ラミリアは、割と冷静にそう考えていた。

自分はカイザートの名家、
由緒ある戦闘部族の末裔たるパ・ドゥ家の
ただ一人の娘だ。
男児に恵まれなかった家の為、
女である自分では成れぬ跡取りとして
いつかは誰か、良き伴侶を見つけねばならない。

本当は
ラ・ディマ家の次男…クォルん家の2番目のお兄さん・ファルと許嫁だった私は、
当時まだ『結婚』だとか家に縛られる事…
それより何より、
親同士で決められた相手より、
その弟であるクォルの事がずっと好きだった訳で…。
あの時は結局、
「まだまだ修行が足らないから」って言うクォルの機転で全て破談になり、
ファルは別の人と一緒になる事になった。

…確かにあれからもう6年は経つ。

親やお爺様が痺れを切らしても仕方ない。
だって、
私はたった一人の子供なんだもの…。

「(…はぁ…。
クォルは相変わらず私なんかとは雲泥の差の可愛い子ばっかり追いかけてるし、っていうか、そもそも私なんか女にすら見られて無いし…。
そりゃそうよね、私みたいにガサツで男勝りだと色気もへったくれも無いわよね…。
…私もそろそろ、腹くくんなきゃいけないかなぁ)」

同封の写真の青年を眺め、そっと机に置き、深々と溜め息を吐いていると、ふいにヒョイっと、ラミリアが手に読んでいた手紙が上から引き抜かれた。

「…⁈、…あ、ちょ…っ⁈」

慌てて振り返ると、クォルがいつの間にかラミリアの背後に立っていて、早速ラミリアの手から引き抜いた手紙に目を走らせていた。

「族長からじゃん。相変わらず短ぇ手紙だなァ…“良い話”って何だ?」

「か、勝手に人に来た手紙、読むなバカ!」

「…ん?何だ、その写真」

止める間も無く、クォルが机に置いていた写真をヒョイっと手に取った。

「⁈だ、だからぁ…!」

ラミリアは慌てて写真を奪い返そうと手を伸ばしたが、クォルはラミリアの慌てぶりに、ワザと写真を持つ手をラミリアの手が届かない、自分の頭上高く上げてそれを躱しながら、繁々と写真を眺めた。

「んん?コイツ、『鬼』じゃんか…?何、この写、真……っ、ふぐォっっっ」

クォルがそう訊き終わらぬうちに、ラミリアはクォルの鳩尾に一発拳をねじ込み、体勢を崩したその手から写真を奪い返した。
蹲るクォルにラミリアが言い放つ。

「『お見合い写真』よ!
『お見合い写真』!!!」

まったく…、とラミリアは写真をいそいそと手紙の入っていた大きな封筒に仕舞い込んだ。

「…へ?…オミアイ…?」

一瞬、本気で何か分からなかった。

しかしながら、秒でクォルはその単語が意味するところを察知し、ラミリアに拳を捻じ込まれた鳩尾の痛みなど吹っ飛んだのか知らないが、ガバァッと立ち上がってラミリアが『お見合い写真』とやらを仕舞い込んだ封筒にバッと手を伸ばした。
…が、ベチンとラミリアに叩かれた。

「…何よ」

「あ、いや…その」

クォルはハッとして手を引っ込めた。
その様子にラミリアは訝しみながらも、淡々とクォルに話す。

「ま、そんな訳だから、私、ちょっと家に帰ってくるわね。暫く詰所空けるわ」

「…その見合い、受けんの?」

「そりゃまぁね。
私は跡取りになってくれる人を、探してる身ですから」

「そ、そっか、そう…だよな」

受け応えるクォルの声に覇気がなくなった様な気もするが、行くのを止めはしないクォルに少し寂しく思いつつ…
ラミリアは諦めたように続けた。

「まあ?私はまだ 功夫 クンフーが足りないし、ましてや、まだまだ体がピンピンしてんのに、女だからって大人しく家庭に入るなんてまだまっぴら御免だわ。
…何にせよ、会って話さないと相手にも失礼だし、断るなら断るで自力で断ってきたいのよ」

「…な、何だ…そういう事か」

「?ぇ、」

何か呟いた気がしたが、何だろう。
ラミリアが聞き返すより早く、クォルが何故か…やたらと偉そうな顔をしてフフンと鼻を鳴らした。

「ぃよぉし、ラミ!
だったらこの俺様が!また一肌、いや二肌でも幾肌でも脱いでやろうじゃねぇか!」

「…何でアンタがそう偉そうなのよ。第一、…何、一肌脱ぐって?」

「だってお前、縁談断りたいんだろ?だったら俺様からもキチンと親父さん達に話つけてやんよ」

「…えっ…?」

「ラミリアはまだまだ修行足んねえし、それにウチの兄貴ならともかく、お前の人となりを全然知らねえ奴が、何にも知らずにお前みたいな男女と婚約なんか可哀想だ、ろ……ぅぐうっ?!」

クォルが言い終わらない内に、もう一度鳩尾に…今度は膝蹴りを食らわし、ラミリアはスタスタと部屋を出て行ってしまった。

「(ちょっと期待したあたしのバカ!)
とにかく、クライド達に暫く家に帰る話してくるわ。
…アンタもあたしに連いて来たいなら、ホザいてないで とっとと支度しときなさいよね!明日の明け方には馬で出るわよ!」

プンスカと怒り肩のラミリアを 再び食らった鳩尾の痛みに蹲りながら見送り、
クォルは、気配が無くなるのを見計らって、はぁぁぁぁぁっと海より深い溜め息を口から吐いた。

「(あっぶねー、あっぶねー。詰所に寄って良かったぜ…。見逃すトコだった…。
族長もまったく凝りねぇな、たくよぉ…油断も隙もねぇぜ…)」

そうしてクォルが心底ホッと胸を撫で下ろした事など、
…ラミリアが知る由もなかった。



******

カイザートに着くと、ラミリアは一度帰ると今回の用事で長居しそうな実家より先に、クォルと共にクォルの実家の方へ帰省の挨拶に向かった。
その道すがら。

「なんか、こう…人が増えたわよね。元々ごちゃごちゃむさっ苦しい町だったけどさ…熱気が」

「そうなー。
…あと至る所のベンチや街灯が真新しかったりするのは何でだろうな」

二人は、自分達がコードティラルに行ってから、少々様変わりした様子の街の風景を 何処と無く感慨深げに見ながら歩く。

クォルの家は、街の中心部に位置するラミリアの家とは少し離れた、住宅区域の出入り口に位置する。
昔から、戦う力を持たぬ商人などの住民を守る役割を担う家だ。
カイザートの礎を築いた戦闘民族の血を引くパ・ドゥ家ほどの古い歴史を持つ家では無いが、今の街の生計が確立し始めた辺りの初期の頃、多大なる尽力を尽くし、街に貢献したらしい。
元々ラミリアの様に体術を得意とするカイザートの人々だったが、ラ・ディマ家が体術は勿論、様々な武具を扱う剣術に長けていた事から、大陸でも名を馳せる程の武術の街へと発展したのだという。

クォルの家に到着し、その大きな門をくぐろうとした時、何か大きな影が突如ラミリアの眼前に飛び出し、ガバァッと覆い被さってきた。

「わ、わぁぁっ!」

受け止めようとはしたものの、その勢いのままラミリアが押し倒される様に地面に尻餅をつくと、覆い被さってきた大きな影が、「わふっわふっ!」と嬉しそうに尻尾を振りながらラミリアの顔を豪快に舐め始めた。

「待って!待って、ルドガー!お出迎えありがとうなんだけどっ、ちょ、ストップストップ…っ」

ラミリアの肩の高さ程ある大きな犬であるルドガーは、垂れた長めの耳と、フサフサでツヤツヤな小麦色の毛が自慢の、クォルの家の門を守る番犬だ。
「しゃあねぇなあ」と、クォルはラミリアに乗っかるルドガーを後ろから抱き上げ地面に降ろしラミリアを解放してやると、ルドガーの垂れた両耳をビロンと持ち上げ忠告した。

「お前なぁ、家の人間の俺様よりラミを歓迎するたぁ相変わらずだなぁ、ご主人様のお帰りだぞ こらぁ」

《わふわふ!わふわふ!》
ドガーは分かったのか分かってないのか、今度はクォルに飛びつく様にしてクォルの顔を舐め回し始めた。

「ば、っ、舐めろって、言ってん、じゃねぇよ、この、バッカ犬…うぐ、わかった、わかった!」

そうこうして玄関先でじゃれ合っていた声が聞こえたのか、家の方から一人、クォルに良く似た顔立ちの男性がやって来た。

「何か庭先が騒がしいと思ったら…
お前かボンクラ四男坊」

「おいファル兄、コイツ普段ちゃんと番犬してんのかよ…?ラミが来たなり速攻で舐め回されたんだけど」

ファルが来るとルドガーはクォルを舐めるのを止め、ファルの足元にのっそのっそと行ってしまった。
ファルは足元に来たルドガーを軽く撫でると、ははは!と豪快に笑う。

「ルドガーは怪しい人間にはキチンと容赦しねぇよ。
それに、ルドガーが俺ら家族以外で尻尾振んのは、ラミリアお嬢だけさ」

《わっふ!》

ファルの言葉にルドガーが満足気に一声鳴いた。
と、そこへ、屋敷の方から小さな2人の子供達がパタパタと、1人の女性がやって来る。
女性は身重なのか、大きなお腹を気遣いながらゆったりと歩いて来て、ラミリアにタオルを差し出した。

「お帰りなさい、ラミリアお嬢様。ルドガーから熱烈なお出迎えをされたみたいね」

「わー!すみません、エレナさん。ありがとうございます!」

ラミリアはエレナからタオルを受けとると、ルドガーに舐められた跡をわしゃわしゃと拭き取り一息ついた。

エレナはファルの奥さんである。
過去に自分と許嫁同士だったファルと、自分の後任の形でファルと結婚する事になったエレナの二人は、ラミリアにとって最も頭が上がらない存在だ。
幸いにもこの二人はとても仲睦まじく、2人の…いや、3人の子宝に恵まれ、とても幸せにラ・ディマ家で暮らしている。
前述した経緯のあるラミリアにも変わらず接してくれていて、今でもこうして気軽にラ・ディマ家に遊びに行くことが出来る。

2人の子供達がきゃあきゃあと嬉しそうにラミリアとクォルに抱きついたところで、ファルが悪戯っぽくニヤリと笑い、ラミリアに声をかけた。

「おー、そういや、お嬢。何か新しい縁談が来たらしいな?それで戻って来たんだろ?」

「…げ。何でラ・ディマ家にまでその話いってんの⁈」

「そりゃあ、オラが町の族長ん家の大事な大事な一人娘がお見合いするっつーなら、すぐに街中に噂は拡がるモンだろ」

「…プライバシーもヘッタクレも無いわね…」

ラミリアは呆れ顔で頭を抱えた。
…一刻も早く、縁談を断らねば。
その様子に、ははは!とファルは笑いながら、おもむろに、同じくルドガーに舐め回された顔をタオルでガシガシと拭いていたクォルの首根っこをむんずと掴み、ラミリアに言った。

「この放蕩四男坊には ちょっと用事があるから、先に族長や師父らに帰って来た挨拶しとけ、お嬢」

「え?あ、…うん」

「んな⁉︎
ちょ、待てよファル兄、俺様は だな…、もがぁ!」

抵抗しようとするクォルの口を塞ぎ、にこやかにラミリアに笑いかけながらも、ファルは彼女に分からぬ様、流し目でギロリとクォルを睨んで黙らせた。
そして、何事もない様にファルは続ける。

「なぁに、どのみち このバカタレにも帰省の挨拶には伺わせねぇとなんねぇからな。用事を済ませたら向かわせるからよ」

「わかったわ」

何やら釈然としないものを感じたが、確かに家には帰らねばならないし…。
ラミリアは言われるがまま、クォルを置いて家に戻る事にした。

******


ラミリアの実家…
カイザートが誇る武術道場『練武館』は町の中心部に位置する。
家への帰り道すがら、冒険者や商人で賑わう繁華街を通ると、ラミリアは行く先々で『お見合いの話』を振られた。
“まったくもう…”
そう深々と溜め息をつきつつ、ラミリアは久々に家の門をくぐった。

…の、だが。

“…何かしらね…。
凄く殺気に近い気配を感じるんだけど”

ラミリアは気付かないふりをしつつ、母屋ではなく、敢えて道場側の方へ歩みを進める。
まず会わねばならない父や祖父は、日中はほぼ道場で入門者に手ほどきをしているからだ。
猛者の揃うこの場所で、こんなに殺気の様な気配を感じるなど不自然極まり無いが、逆を返せば、ここで今 何か起こった所で誰かしら飛んで来るだろう。

ラミリアは警戒しつつも、父と祖父の居る筈の道場の扉を開けようと扉に手を掛けた。
その時。

強烈な気配を背後に感じて、ラミリアは振り返りざま瞬時に前腕を顔の前で構え、受け身を取った。
予想通り、盾にした前腕に強い打撃が走る。

“…重い●●…!”

頭部目掛けて拳が飛んで来た様だ。
ジンジンと前腕が痛む。

「…何?いきなり物騒ね…」

ラミリアが次打が来ないので腕を静かに降ろすと、目の前には、次打を打つ構えを取る、おそらく自分より少し若い…青い髪の一本角の『鬼』の少女。

“え、女の子…?”

先程受けた打撃は結構重く、無意識に男に●●襲撃を受けたと思っていた。

“流石、『鬼』…ね”

ラミリアが逡巡していると、鬼の少女は構えを解かぬまま、淡々とラミリアに話しかけてきた。

「…『練武館』師範代、ラミリア殿とお見受け致しました」

「ん?もしかして、あなた門下生?だから誰もこの気配を放置してるのか…
あのさ、対人で頭部を狙うのは主義に反する、って習わなかった?」

「失礼。隙が無かったもので。…許可は頂いております」

「…許可●●、ですって?」

誰の、と訊くより速く、少女がまた拳を繰り出してくる。
ラミリアは“勘弁してよ…!”と舌を打ちつつ、少女の繰り出してくる拳の連打を臆する事なく受け流していく。

“もう、何なのよ一体…!”

女相手に防戦一方に徹しようかとも思ったが、いかんせん訳が分からない状況な上に、この鬼の少女はそれなりの使い手の様で、ラミリアも少々手加減が難しくなってきた。
仕方ないので、繰り出される拳の連打を交わしつつ、少しずつ打撃のリズムをずらさせ、頃合い良く重い1打が来た瞬間、ラミリアは大きく身体を反らせ少女に回り込ませて身を屈めると、すぐさま回し蹴りを繰り出す。
少女は足をすくわれバランスを崩すが、難なく地面に手をつき、バク転してラミリアから距離を取った。

「あら、なっまいき…!」

「恐れ入ります」

少女は表情一つ変えぬままラミリアの悪態にそう答え、改めてラミリアに仕掛け直してくる。

“拳の一打は重いくせに、やたら撃ち込みが速い…。私の攻撃は入らなくもないけど、やたら打たれ強くて立ち直りが早いし…。
…何かクォルみたいでやり辛い…!
『鬼』って力の使い方、みんなこうなのかしら⁈”

この程度ではまだ息は上がらないが、正直『鬼』とはあまりやり合った事がなく、ある程度すら把握が難しい。

“…っていうか、師父かしら⁈
本気で殺り合って良い ●●●●●●●●●●許可なんか出してくれちゃってさぁ…!”

頭部狙いは、魔物などの『殺さなければ殺られる』相手だけのみ許可されている。
つまり、ラミリアの流派では、対戦で頭部狙いは本来してはならない決まりなのだ。

“…私の 功夫 クンフー試されてる、って事か…”

師父…ラミリアの祖父や父ならば、お茶目としてやりかねない事ではあるが、何を意図しているのか分からない以上、やられっぱなしは正直 癪にさわる。

“…さっさと終わらせて、殴り込んでやるんだから…!”

今度はラミリアから仕掛けていく。
時たま混ざる軽い連撃の一つをワザと捉え、そのまま手首を捻って足を掛け、勢いのまま少女を投げ倒す。
衝撃で動けなくなった瞬間に急所に拳を捻じ込もうとしたが、やはり直ぐに拘束は解かれ、反対に下から蹴り上げられそうになる身体を大きく仰け反らせて避けると、互いにまた間合いを取り直した。

“蹴りには弱いみたいだけど、
…イマイチ決定打に欠けるわね…!”

しかしいつまでもこうして戦っているのも、自分的にあまり好ましい状況では無い。
一つ大きく深呼吸して、ラミリアは再び構え直した。
少女もスッと構え直す。

「私、大事な用事があるの。そろそろ終わりにさせて貰えないかな」

「…では、これで最後という事で」

短い会話が終わるや否や、2人は一気に間合いを詰め、互いに拳を打ち込みあう。
ラミリアが容赦無く頭部を狙ってくる少女からの拳をいくつか躱した時、耳元で軽く《チッ》という音がしたかと思うと、瞬間軽く耳朶が痛んだ。

“…ぃたッ!”

《カシャンッ》という何かが下に落ちた様な小さな音が耳に入り、ラミリアは思わず耳に手をやり、そのまま体勢を崩してしまう。
少女はその隙を見逃さず、すかさず振りかぶる様に拳を打ち込んで来た。

“あ、しまっ…”

拳が顔面に迫らんとした瞬間、倒れ掛けたラミリアの目の前に大きな影が覆い被さった。

「何やってんだバカ!」

「そこまでだ、…優焔ユウエン!」

クォルの怒鳴り声、それから聞き慣れない男の声とバシィッという大きな音。
倒れ込んだラミリアにはクォルが庇う様に覆い被さっていて、
少女が繰り出した筈の一撃は、先程聞こえた声の主だろうか、1人の身体の大きな青年が片手で受け止めていた。
あまりの状況の変化にラミリアはポカンとしつつ、とりあえず自分に馬乗り状態のクォルの名前を確認する様に呟いた。

「…クォル」

「何やってんだよ、頭カチ割られてぇのか お前は…」

クォルは青ざめていた顔を何処か安堵した様に緩ませると、はぁぁ、と大きく息を吐いた。
ラミリアに覆い被さっていた体を少しどけると、クォルはラミリアの体を引き起こす。

「…あ、ありがと…」

「どういたしまして」

クォルは何処と無くぶっきらぼうにそういうと、ふいっと顔をそらしてラミリアの横に離れた。
その素振りを不自然に思いながらも、そこでようやくラミリアは、先程の少女と、ラミリアにトドメを刺さんとした 少女の一撃を止めたらしい青年の方へ目を向ける。

「優焔、…解ってるな?」

「…はい。わたくしの負けです」

目を向けた先の青年に低い声で問われ、少女はそう口にした。

“…え、あの子の負け●●
どう見ても、あたしの方が今
絶対ヤバかったけど…”

そう考えあぐねていると、横でクォルが「…フゥン、アイツ解ってんじゃん」と若干ムスッとした顔で呟いた。
それが聞こえてか、青年がくるりとラミリアとクォルの方を向いた。
…赤い髪の二本角。

「…あ!貴方…」

顔を見た瞬間、ラミリアは思わず声をあげた。
手紙と一緒に送られてきた、あの『お見合い写真』の鬼の青年ではないか。
鬼の青年は拳と掌をパンッと合わせて礼をすると、今度はラミリアに深々と頭を下げた。

「俺は 赤雲セキウン。焔帝山から『練武館』に修行させて貰いに来てる。
侍女の優焔がいきなり失礼をしてすまなかった」

「セキウン…さん?え、その子…侍女?え?え?」

ラミリアが口をパクパクさせていると、先程からユウエンと呼ばれているあの少女も、セキウンに倣ってラミリアに頭を下げてきた。

「すみません。非礼を承知で、少々試させていただきました。
…おみそれいたしました、ラミリア殿」

「え?何?試す?
っていうか、どう考えても私が負けでしょ、さっきの…」

クォルが庇わなければ、
セキウンが止めなければ…
こちらは、クォルの言い方を借りれば、頭をカチ割られて●●●●●●●●いたところなのだ。

だが、ラミリアのその問いに セキウンは首を横に振った。

「優焔は最初から余裕が無くて、あえて頭部ばかり狙っていたが、貴女は攻撃の手は加えても、頭部狙いを許可された闘いにも関わらず、決してそうはしなかった」

「買い被りすぎよ。…それに、最後は戦っている最中に他の事に気を取られて、完璧に集中力が切れてしまったわ。戦士にはあるまじき行為よ」

「…ああ、そういえば。
アレは一体どうして…あっ、ラミリア嬢、顔の横側…血が…!」

セキウンがラミリアの右耳の方から血が出ているのに気付き、慌てて手を伸ばす…
が、触れる前にクォルがラミリアの肩を掴み、ハタから見るとさり気なく、強引に自分の方へと向かせた。

「ホラ、見せてみろ。
…あーあー、いつものイヤリングが吹っ飛んだのか。だから危ねぇから付けんなって、いつも言ってんだろ」

「う、うるさいなぁ…っ。…唾つけとけば止まるわよ」

「唾って、お前なあ…」

クォルが呆れ顔で耳の血を拭いてやろうとした時、改めてセキウンが声を掛けてきた。

「ラミリア嬢、少し失礼するよ」

そう言ってセキウンが、止める間も無く血の出ている方の耳に触れたかと思うと、彼の手から暖かな光が照らされた。
詠唱が無かったが、治癒魔法の様なものだろうか。

「…止血程度だが、多少はマシだろう」

「あ、ありがとう…コレは『内功』?」

「ああ。俺は『外功』が得意だから、まだまだだがな。…一応、これでも『僧侶』だから、これくらいはな」

「はぁー、凄えモンだなぁ」

本当に止まった、とクォルは血の汚れを拭いてやりながら舌を巻いた。
セキウンが照れた様に はははと笑っていると、ユウエンが何やらラミリアにスッと差し出した。

「あの…ラミリア殿。落とされた物は、このイヤリングで間違いないでしょうか」

差し出されたユウエンの手には紅い石のイヤリングが乗っている。
ラミリアはパァッと顔を輝かせ、嬉しそうに受け取った。

「ありがとう、ユウエンさん!
(…良かった、要石は割れてない)」

「先程の様子から、とても大事な物の様にお見受けしましたので。
壊れていない様で何よりでした」

ユウエンの言う通り、このイヤリングは…いや、正確に言うとイヤリングに使われている紅い石要石は、ラミリアにとって唯一無二の『宝物』だ。
例えば同じ石を用意したところで、ラミリアにしてみれば、道端に落ちている泥まみれの石ころと世界で一番高価で美しい宝石程の…いや、それ以上の差がある。

何せ これは幼い頃、クォルから貰った大切な石なのだ。

…まあ、渡したクォルはと言えば、本人的には洞窟で見つけた ただの大きめの紅い石だった訳で(子供心には『お宝』を見つけたとは思った様だが)、それをラミリアが後生大事に身につけているなどと夢にも思っていない事だろう。
イヤリングにする際、石をかなり綺麗に磨き上げたので、それが同じ石だと思わないだろう程の物なので。
(まずニブチンなクォルが気付く訳がない)

だが、嬉しそうにラミリアがイヤリングを受け取ったのを見て、
セキウンはそれがどういう謂れのある物かはともかく、…何となくを察した様だった。

「…少々 妬けるなぁ」

やれやれと苦笑いしたセキウンに、ラミリアとクォルは何の事かと首を傾げる。
セキウンは はっはっは!と豪快に笑うと、改めてラミリアに挨拶した。

「優焔が試したのは、貴女が我が焔帝山に仲間入りするに相応しいか、を試したのだ。
同じ、俺の嫁候補として」

「は、ハァァ?!」

「我らが火の部族は、例え外から迎える嫁であれ、強くあらねばならんからな。結果的に、優焔も認めた様だし、
…俺も大変、貴女を気に入ったぞ」

「ええっ?!」

ラミリアが素っ頓狂な声をあげるかあげないか、セキウンはニンマリと笑って、ラミリアの手を恭しく取り、指先に軽く口付けた。

「わ、わぁぁぁ!!??」
「あっ、コラ テメェ!!!」

突然の行為に固まるラミリアに代わり、クォルがセキウンからラミリアの手を慌ててバッと振り払った。
セキウンはその様に楽しそうにカラカラと笑ってみせ、悪戯っぽくクォルに言い放つ。

「優焔が少々手荒にしてしまったけど、
…言ったろう?結果次第では“本気でいかせてもらうから、よろしく”って」

「ぅ、ぐぬぬぬぬ…」

言い返すに言い返せないのか、クォルは口の中で唸る。
ラミリアと言えば、お姫様の様に手に口付けされるなど初めての事で、手を見つめたまま赤い顔でアワアワしているし、クォル的にかなりヤバイ状況だ。

実は先程ファルに実家で引き止められたのは、この鬼の2人…セキウンとユウエンの話で、
焔帝山では有力者は一夫多妻…つまり嫁を何人か持つ事が許されていて、このセキウンもその有力者とやらの1人らしく、この度、『練武館』に『外功』の修行がてらやって来たのだが、丁度良く結婚してないという一人娘が『練武館』には居ると聞き、それならばとトントン拍子で縁談が進んだのだと言う。
その際ファルから言われたのは、
『今回の相手は厄介だぞ。強い嫁な程求められてるらしいからな。ラミリアお嬢なら間違いなくお眼鏡にはかなう。
…お前がチンタラしてるからだ』
という痛いお言葉で、
慌ててラミリアの後を追って『練武館』に来たところで、ラミリアとユウエンの闘いを陰から観ていたセキウンと鉢合わせし、今に至る。

セキウンには『強さ』を見極められる選識眼がある。

だからこそ、そんじょそこらの男になど到底備わってないモノを持っている男がラミリアの許嫁になるなど、クォルにとっては脅威以外に他ならない。

そんなクォルの事など気にも止めないユウエンが、セキウンに提案する。

「主、ラミリア殿がお気に召したのならば、
いっそお山にお連れして攫っていってしまっては?」

「ははは。…あのな、優焔。本音が建前より前に出てるぞ?」

「何が “ははは。”だー!
コイツはまだまだ修行中の身なんだ!山なんかに行ったら、それこそ思う存分動けねえじゃねえか!」

クォルが思わず食ってかかると、セキウンは それこそ“はははっ!”と笑って2人に言った。

「ラミリア嬢はかなり修行を積まれていると思うけどなぁ…。
まぁ、何となくだが、ラミリア嬢が何故武芸の道に身を置き続けるかも理解したし、何故クォル君が彼女のそばに付いているのかも理解したつもりだよ。
同じく武芸に身を置く者として、
俺も野暮はしないし、無理強いもしない」

「だったら破棄しろ、この縁談!」

「んー。残念ながら、それは許諾しかねるな。
ラミリア嬢がただの普通の女人であれば考えるところだったが、
武芸に長け、死線でも相手を気遣える心がある。
俺はそんなラミリア嬢に一目で惚れてしまった訳だし」

「「んな…ッ?!」」

ラミリア(は一瞬で真っ赤になった)とクォルが息ピッタリに声を上げると、セキウンはクォルにニヤリと笑い返した。

「まあ?まだ俺も●●修行中の身だ。ラミリア嬢の気が俺に向く日まで気長に待つとするよ。もしかしたら、チャンスは残ってるかもしれないしね。
…と。さてさて2人とも。師父に帰省の挨拶が済んでないんじゃないかな?」

「誰の所為だと思ってやがる!」

「はっはっは!先に用事を済ます許可は取ってあるから、行っても怒られないと思うから大丈夫だよ?」

「ホザけ!
…くそっ、ほら、行くぞラミ!…って、だー!いつまでも照れてんじゃねぇ!」

セキウンのストレートな言葉にただただ赤くなって固まっているラミリアを、クォルは腕を掴んで引きずる様に道場の中へと連れて行った。
それを“いってらっしゃーい”と楽しそうに手を振って見送るセキウンに、ユウエンが ハァ…と溜め息をつく。

「主、本当にラミリア殿との縁談をお受けするんです?話には聞いていましたが、何というか…ホントに本気でただの当て馬じゃないですか」

「まあ、俺なんぞで人の色恋の進展に協力出来るならと思って受けはしたんだがな。確かにあの2人は何というか…もどかし過ぎる。
…だが、ラミリア嬢はかなり俺には良い嫁御になりそうなんだよ…。本気で惜しいよな」

「となると、わたくしも うかうかしてられませんね…主の中での序列が変わってしまいそうですから」

基本無表情なユウエンの顔がどことなくムッとしている。
セキウンは また“ははは”と楽しげに笑って、ユウエンの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「安心しろ優焔。俺はお前も、ちゃんと俺の良い嫁御になると思ってるよ。
まあ何にせよ、お互い精進だ、精進」

「肝に命じます」

「さ、俺たちも中に入ろう。当て馬なら当て馬らしく、もう少しからかってやったら良い薬になるだろ」

「そうですね。
それに、ちょっとでも隙が出来たら攫ってしまえばいいですよ」

しれっと言われたユウエンの言葉に、セキウンは苦笑いした。

「…とりあえず優焔。
お前もラミリア嬢が気に入ったのは分かるんだけど、その物騒な物言いはどうにかしような?」




この2人がどうクォルとラミリアの関係に影響を及ぼすのか。

…それはまだまだ先の話である。




■ お わ り ■



補足

前回更新でセキ坊を紹介したので
今回はユウちゃんを。

ユウエン(女・20〜21)
◉鬼
◉セキウンと一緒に修行に来ているセキウンの嫁候補の1人。
◉元々セキウンの家(僧兵長家)に仕えている家系で現在はセキウンの侍女兼護衛
◉セキウンの事は「主(あるじ)」と呼ぶ
◉ラミリアをマジリスペクト。(胸とか)

おわりに

本当は5000文字くらいの短いものにする予定でしたが、思いの外長くなってしまいました(^^;
ウチのアダルトCPが一番ウブなのが困ったものですが、コイツらは まだまだくっつきませんよ☆(鬼)

さて、気が済んだので
早くうちの子に鬼ちゃんコスさせたい…

間に合え…





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